「高齢出産で生まれた子どもは自閉症の割合が増加する」という説があります。実際に世界各国で両親の年齢と自閉症リスクを裏付ける研究結果が報告されており、子どもを持つことに不安を覚える30~40代のご夫婦も少なくありません。
親が高齢だと、自閉症リスクはどのくらい増えるのでしょうか?また、回避する方法はあるのでしょうか?今回は自閉症の基本的な情報とともに、高齢出産でどのくらい自閉症の確率が増えるのかを母親・父親別に解説していきます。
自閉症とは、社会的なコミュニケーション障害や強いこだわりによって社会生活が困難な状態です。
以前は自閉症やアスペルガー症候群などをひとまとめにして「広汎性発達障害」と呼んでいましたが、現在はDSM-5という新基準により「自閉スペクトラム症」と表現されるようになりました。
自閉スペクトラム症は約70人に1人はいるとされ、女性より男性が4倍ほど多いのが特徴です。早ければ1歳半くらいで診断されますが、軽症で大人になるまでまったく気づかれないケースもあります。
症状の出方は個人差が大きく、知的障害の見られない高機能自閉症から知的障害を伴う重度自閉症までさまざまです。
自閉症の症状には以下のようなものがあります。
・周りと適度な距離感を保てない
・相手の感情を読み取るのが苦手
・話がかみ合わない
・暗黙のルールを理解できない
・集団行動が苦手
・冗談や皮肉が分からない
・集中すると周りが見えなくなる
・手順の強いこだわり
・音・光・匂いなどに敏感または鈍い
・些細なことが気になって集中できない
重度になると、以下のような症状を示します。
・人と目を合わさない
・人に関心を示さない
・言葉を発さない
・同じ言葉を繰り返す
・一方的に話す
上に示した症状はあくまで一例で、すべての自閉症患者に当てはまるわけではありません。症状の出方には個人差がありますが、総じて周囲とうまくコミュニケーションをとれないことが自閉症の主な困りごとです。
自閉症は特性であり、治るということは基本的にありません。
ですが、社会的な問題につながる行動は本人の成長や療育の成果、環境の工夫によって和らぐことが多いとされています。
自閉症に対する働きかけは療育と過ごしやすい環境づくりが基本となります。知的障害を伴う自閉症の場合は、成人したあとも周囲の人たちによる緊密なケアが必要です。
自閉症を発症する原因についてはっきりしたことは分かっていませんが、現時点ではいくつもの遺伝的な素因が複雑に関与して起こると考えられています。
また、近年は自閉症児の報告数が増加しており、私たちの生活を取り巻くなんらかの環境的な要因が自閉症の発症につながっている可能性も考えられます。そのひとつとして考えられているのが「両親の年齢」です。両親が高齢になってから生まれた子どもほど、自閉症の割合が増すことが分かっています。
一般的に「高齢出産」というと母親の年齢に注目が向かいますが、自閉症の発症においては父親側のリスクが大きいと考えられています。母親、父親のそれぞれの年齢の影響を見ていきましょう。
カリフォルニア大学デービス校の調査によると、40歳以上の女性が出産したときに子どもが自閉症である確率は30歳未満女性の約2倍でした。調査では出産年齢が5歳上がるごとに自閉症リスクが18%ずつ上昇していました。
母親が高齢の場合、自閉症だけでなくダウン症のリスクも上がります。ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は20代で0.1%なのに対し、30代では0.3%と3倍、40代では1%と10倍に変化するといわれ、30代後半~40代女性が妊娠を躊躇するひとつの要因になっています。
イスラエルの研究報告によると、父親が20代のときに生まれた子どもは30代のときに生まれた子どもに比べて1.6倍、40代のときに生まれた子どもは6倍の割合で自閉症を有することが分かりました。
スウェーデンの研究では、20代前半と45歳以上を比べると1.75倍。30代と55歳以上を比べると4倍のリスクがあるとされています。
調査方法が異なるため単純な比較はできませんが、自閉症に関しては母親よりも父親のほうが年齢の影響が強く現れていることが分かります。
高齢出産で自閉症有病率が増えるのはなぜでしょうか。詳しいことは分かっていませんが、高齢になるにつれて卵子や精子の遺伝子障害が蓄積され、結果的に自閉症有病率が増えているのではないかという説が有力です。
東北大学の研究では、人間の50代に相当する高齢の父親マウスから生まれた子どもは若い父親マウスの子どもに比べて鳴き声が少なく、その種類も単調という自閉症的な症状があることをつきとめました。そこで高齢の父親マウスの精子を遺伝子解析したところ、DNAの約100ヶ所に低メチル化を認めたそうです。若年の父親マウスの精子を薬剤で低メチル化したところ、生まれたマウスにもやはり自閉症的な症状が見られました。
つまり、高齢化によるDNAの変化が子どもの自閉症有病率に結びついているという可能性を示しています。
父親の年齢がより影響する原因としては、精子と卵子の発生方法の違いが考えられます。すべての卵子は女性が生まれたときから卵巣に存在しますが、精子は前駆細胞を次々に複製することで生じます。つまり卵子よりも精子の方がコピーによるDNA損傷を引き継ぎやすく、それが自閉症の発症につながっていると考えられるのです。
自閉症が遺伝子の障害で起こるなら、出生前診断や着床前診断などの遺伝スクリーニングで回避することができるのでしょうか。
自閉症が遺伝スクリーニングによって回避できる可能性は低いとされています。なぜなら、自閉症はひとつの原因によって生じるものではなく、健康な人が持ちうる複数の遺伝子や環境要因が複雑に絡み合って生じると考えられるためです。
ただし自閉症症状を示す「脆弱X症候群」や「結節性硬化症」は遺伝要因が明らかになっているため、一部の自閉症では出生前診断や着床前診断でのスクリーニングが可能になってきています。
子どもの障害と遺伝子スクリーニングについて取り上げた「選ばれる命」(NHK)という番組の視聴者サイトには、自閉症の子どもをもつ方の意見が寄せられています。
自閉症でも生まれてきてくれてよかったという声、今は幸せだけれど当初は生んだことを後悔したという声、さまざまな意見があります。その中で目立ったのは「高齢出産と自閉症のリスクについてもっと知っておけばよかった」という声です。高齢出産では自閉症に限らずダウン症や知的ハンデをもつ子どもの割合が増加します。すでに出産された方の中には「あの時よく調べていれば、検査をしていれば」と思う方も少なからずいるのです。
高齢で出産に臨む場合、まずは「知る」ということが重要です。自閉症の子どもをもつ方の意見では、できるだけ情報を集め、最善を尽くしてきたという人ほど後悔が少ない傾向にあります。着床前診断や出生前診断などの遺伝子スクリーニングは未だ賛否両論ですが、子どもと向き合う第一歩として検討してみてもいいのではないでしょうか。
こちらもおすすめ
高齢になると卵子や精子が遺伝子エラーを起こしやすく、自閉症やダウン症などの疾患を引き起こしやすくなります。株式会社B&C Healthcareでは着床前診断でどんなことが分かるのかをご案内しているので、まずはお気軽に資料請求をご利用ください。
弊社のサービスの資料請求は、以下より可能です。