自分たちは不妊症かもしれない……と思ったとき、多くの場合女性側に原因があるのではと男女ともに考えてしまうようです。しかし、実際に調べてみると不妊は男性側が原因なことも少なくありません。男性不妊についての情報を詳しくご紹介するとともに、男性不妊の予防や対策について詳しくお伝えします。
まずは、男性不妊についての基礎知識についてお伝えしていきます。男性不妊を正しく理解することが男性不妊の予防や対策につなげていくことができます。男性不妊とはどういったものなのでしょうか。
男性不妊とは、言葉の通り男性側に原因がある不妊症のことをいいます。男性側に原因がある不妊症の割合は、48%程度といわれており、男性不妊によって不妊症に悩まされてしまう割合は約5割であるといわれているのです。約10組に1組のカップルが不妊であるといわれている昨今。なかなか妊娠に至らないという時は女性だけでなく男性側も、自分に原因があるのではないかと考えることが必要なのです。
男性側にも女性側と同じくらいの不妊症の原因を抱えている可能性がある一方で、男性は自分が不妊症であると認めたくない男性が多い傾向にあります。これは、厚生労働省が発表した受診率にも表れています。女性の場合は1日の不妊治療外来患者の数が11~50 人程度と回答した医療機関が最も多く、45.2%近くいました。その一方で、男性不妊治療外来患者の数は、1日当たり10人以下という回答が最も 多く77.1%でした。
このことから、女性は不妊症かも……と考えた時には積極的に医療機関へ相談し、不妊治療を受けに行くのに対して、男性は、自分が不妊症であると思っていない、あるいは不妊症であると思っていても外来治療を受けに行かないという方が女性に比べると多いということが分かっています。
男性不妊となる原因には、精子そのものが作られないというパターンと、精液の中に精子が確認はできるもののの量が少なかったり奇形であったりするというパターン、そして性行為そのものができないという3つのパターンがあります。このそれぞれのパターンについてくわしくご紹介します。
精子が作られていない状態のことを造精機能障害といいます。精子は常に作られているわけではなく、体調や精子が作られる精巣の環境によっても作られなくなることがあります。たとえば、自転車等に長時間乗っていて精巣の血流が低下していたり、サウナやお風呂などに長時間、頻回に入って精巣を温めることでも造精子機能は低下して、精子が作られなくなることがあります。
このようにさまざまな影響があり、確固たる原因は不明なことが多い造精機能障害ですが、中でも原因が確定できる造精機能障害に精索静脈瘤があります。精索静脈瘤は男性不妊の代表的な疾患で、精巣の周囲に血液がうっ血することで精巣内の温度が上昇し、造精機能へと影響を及ぼすのです。すべての症例に治療が必要ということではありませんが、精液の所見が悪かったり、高度な静脈瘤が見られる場合には手術にて治療を行います。治療後の精液の改善率は約6~7割ともいわれています。
精子が作られているのに精子の量が少ない状態のことを精路通過障害といいます。精路通過障害として考えられる病名には先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症性閉塞、さらには鼠径ヘルニアの手術によるものがあります。これらは閉塞している精路を開通させる、あるいは閉塞している部分から精液を採取して顕微授精することで、不妊の解消へとつなげることができるでしょう。
また、精路通過障害以外に精液の中に精子がない状態として、無精子症という病気の可能性があります。その場合は精子を取り出す手術を行い、不妊治療法として顕微受精を行う場合もあります。
こちらもおすすめ
【医師監修】高齢出産で自閉症リスクが上がる?母親・父親別に有病確率を解説
精子や精子の通り道には何も異常がないにもかかわらず、不妊症となってしまう状態に精機能障害という可能性も考えられます。性機能障害には勃起が起こらないため、挿入ができないなど性行為そのものが最後までできない勃起障害(ED)と挿入にまでは至るものの射精ができない射精障害があります。
勃起障害は、動脈硬化や糖尿病が原因による神経性、血管性の病気も考えられるのですが、最も多く考えられるのは心因性といい、精神的な理由によるものです。特に不妊治療をはじめてタイミングを指導された、あるいは妊活を始めたばかりの男性では挿入をして精液を出さなければならないというプレッシャーから勃起障害に陥りやすいのです。
射精障害も同様に、射精しなければならないというプレッシャーによって膣内射精ができなくなるのです。射精障害については他にも射精はできているものの精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精、精液が出なくなる無精液症もあります。
また、膣内射精はできており、妊娠率に対してはさほど問題はないものの、早漏・遅漏のように本人が最終的に満足いく射精ができていない場合もあり、この場合も射精障害と位置づけられます。
男性不妊を放置する、あるいは治療を受けなくても何とかなるだろうと考えてしまえば、妊娠する確率は不妊症のないカップルと比較しても圧倒的に下がり、妊娠に至ることが難しくなります。
そうしているうちに、女性の年齢はどんどん上がっていき妊娠率は低下してしまいます。すなわち、男性側に不妊の原因があるかもしれないとわかった時点で早めの対策をしていくことが必要になるのです。ここでは、男性不妊の予防や対策についてくわしくお伝えしていきます。
まず、大切なのは規則正しい生活習慣を身につけることです。男性不妊のなかには生活習慣病あるいは生活習慣が起因することで、不妊症となるものがあります。食生活や肥満、不眠やストレス、喫煙が精子の質を左右するともいわれているため、まずは生活習慣の改善を心がけてみましょう。
男性不妊は女性不妊のようにたとえば生理のときの血液量や、下腹部痛といった症状が出てきません。そのため、精液を調べなければ男性不妊かどうかの確定をすることができません。不妊が疑われる場合は早めに医療機関へ相談して検査を受けましょう。
男性不妊の場合、まずは精液検査を行い精子の量や質を顕微鏡などで確認します。身体的な負担は少ない検査ではあるため、男性不妊かどうかを確認するためにも、医療機関へ相談してみてはいかがでしょうか。
医療機関へは行きにくい、カップル共に年齢が高く、なるべく早く子どもが欲しいという場合には着床前診断を活用してみましょう。着床前診断を活用することで、流産の原因となる染色体の異常だけでなく、染色体の構造や遺伝子疾患の可能性の有無など幅広い情報を得ることができます。
確実に妊娠をしたい、精液の質について知りたいという場合、さらには不妊外来や不妊クリニックには行きたくないけれどこれらの情報は知りたいという場合には着床前診断を検討してみても良いかもしれません。
不妊は女性だけが原因だと決めつけるものではなく、男性側にも何かしらの原因がある可能性があります。男性側が原因の場合には症状などから判別することは難しく、医療機関で治療を受けることが必要です。
その一方で、医療機関へ行きたくないという男性も多く、男性不妊でありながらも男性不妊を早期発見、早期治療することが難しいというのも現状です。まずは日常生活を維持しつつ、不妊を標榜する医療機関に行かなくても精子の状態を知ることができる着床前診断を活用してみてはいかがでしょうか。