体外受精について調べると、「胚盤胞」というワードをよく目にします。
胚盤胞とは、受精卵が着床できる段階にまで成長した状態です。胚盤胞まで培養して移植すると、初期胚よりも妊娠率が高くなります。
なぜ胚盤胞だと妊娠率が上がるのでしょうか?また、胚盤胞のグレードはどうやって読み取るのでしょうか?今回の記事では体外受精の前に知っておきたい「胚盤胞」について解説します。
受精卵は受精後すぐに着床するわけではありません。卵管を通過しながら細胞分裂を繰り返して成長し、5日目が経ったころにようやく着床できる準備が整います。
0日目 | 1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 |
受精 | 前核期胚 | 4分割期胚 | 8分割期胚 | 桑実期胚 | 胚盤胞 |
着床の準備が整った受精卵が「胚盤胞」です。
胚盤胞の内側には赤ちゃんの元となる内細胞塊、外側には胎盤の元となる栄養外胚葉があります。
胚盤胞は透明帯に覆われており、着床寸前になるとこの透明帯を脱出して子宮内膜に着床します。
胚盤胞移植とは、体外受精における手法のひとつです。受精卵が胚盤胞に成長するまで培養し、準備が整ったのちに子宮へと戻します。
従来の体外受精では、培養して2~3日目の初期胚を移植するのが一般的でした。ですが胚盤胞まで培養すると妊娠率が高まることが分かってきたので、現在の主流は胚盤胞移植へと移り変わっています。
ここで胚盤胞移植と初期胚移植の妊娠率を比べてみましょう。次の表は、日本産科婦人科学会が公開した移植ステージ別妊娠率(2020年)のデータです。
凍結 | 新鮮 | |||
年齢 | 胚盤胞(%) | 初期胚(%) | 胚盤胞(%) | 初期胚(%) |
26歳 | 55 | 28.3 | 32.3 | 29.6 |
30歳 | 50.9 | 30 | 36.9 | 31.9 |
35歳 | 47.2 | 29.9 | 38.5 | 26.7 |
40歳 | 34.5 | 17.9 | 22.4 | 14 |
凍結胚の場合、胚盤胞で移植したときの妊娠率は30歳で50.9%、35歳で47.2%です。一方、初期胚で移植したときの妊娠率は30歳で30.0%、35歳で29.9%です。
胚盤胞移植の方が約20%ほど高い妊娠率を示していることが分かります。新鮮胚の場合も、胚盤胞移植の方が妊娠率が高い傾向です。
胚盤胞移植はなぜ初期胚移植よりも妊娠率が上がるのでしょうか。
その理由は「成長する力のある胚を移植しているから」です。受精卵はすべてが胚盤胞になるわけではなく、およそ50%が胚盤胞になる前に成長を止めてしまいます。
つまり、胚盤胞になれるかどうか分からない初期胚を移植するよりも、胚盤胞になった胚を移植する方が妊娠しやすくなるのです。
ただし、人によっては培養しても胚盤胞まで育たないケースもあります。こうしたケースは移植の成績に含まれないため、単純に「胚盤胞移植が優れている」とはいえない部分もあります。
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胚盤胞移植はどのような流れでおこなわれるのでしょうか。おおよそのステップについて解説します。
胚盤胞移植では、まず採卵と採精がおこなわれます。取り出された卵子と精子が受精卵へと変化したら、培養液につけて成長するのを待ちます。
近年では培養にタイムラプスを導入するクリニックも出てきました。タイムラプスとは、一定時間ごとに受精卵の様子を撮影するシステムのことです。培養器に入れたまま成長を観察できるため、胚を傷つけることなく正確な発育状況を把握することができます。
胚盤胞まで成長したらグレードを評価します。グレードは「3BB」「4AB」のように、数字とアルファベットを組み合わせたもので示されます。
左の数字はクラス(発育段階)です。1~6のクラスがあり、成長が進むにつれて数字が増えていきます。
1:胞胚腔がまだ胚の半分未満
2:胞胚腔が胚の半分を超える
3:胞胚腔が胚を満たす
4:胞胚腔が大きくなり、透明帯が薄くなる
5:透明帯が開口して孵化を始める
6:透明帯から完全に脱出
真ん中のアルファベットは内細胞塊(ICM)のグレード、右のアルファベットは栄養外胚葉(TE)のグレードです。細胞の数や密集具合に応じて3つのグレードに分けられます。
グレード評価
A:細胞が密で数が多い
B:細胞がまばらで数が少ない
C:細胞が大きく数が非常に少ない
細胞が密で数が多いほど良好な胚です。
グレードの読み取り方は、たとえば4ABの胚盤胞では「透明帯が薄くなってきた状態で、内細胞塊の細胞数が多く、栄養外胚葉は細胞数が少ない」ということになります。
いくつかの胚盤胞が得られたときは、その中でもっともグレードが高いものを移植します。クリニックや個人の状態によって異なりますが、移植に適していると判断されるのは「3BB」以上の胚盤胞です。
3BB以上の胚盤胞が得られないときは、Cを含む胚盤胞が移植されることもあります。ただし、このあたりの判断はクリニックや個々の状況によって異なります。
胚盤胞移植のあとは、次のような症状が現れることがあります。
・チクチクとした腹痛
・血が混じったおりもの
・出血
・じんましん
これらの症状は移植による刺激、または移植にともなう黄体ホルモン補充の副作用です。
多くは時間の経過とともに収まりますが、
・強い痛みが時間をおいて何度も出現する
・出血が継続する
・じんましんがひどい
このような場合は早めにクリニックに相談しましょう。
胚盤胞を移植したあとは、血液検査で妊娠判定をおこないます。
妊娠判定日はクリニックによって多少異なりますが、胚盤胞移植のおよそ7~10日後に設定されることが多いようです。
妊娠判定日まで待ちきれず、市販の妊娠検査薬でフライング検査をする人もいるでしょう。ですが、早すぎるタイミングで検査をすると正確な結果が出ないことがあります。
妊娠検査薬を使ったからといって妊娠に悪影響を及ぼすことはありませんが、結果に誤差が生じやすいことは頭の片隅に入れておきましょう。
市販の妊娠検査薬で陰性を示しても、クリニックの妊娠判定で陽性になることはあります。理由として考えられるのが「妊娠検査薬で検査するタイミングが早すぎた」ことです。着床して日が浅いとまだhCG値が低く、妊娠検査薬が反応しないのです。
逆に、妊娠検査薬では陽性を示していたのにクリニックの妊娠判定で陰性になることもあります。実際は妊娠していないのに、ホルモン補充療法による影響が妊娠検査薬に反映されることがあるからです。
妊娠判定日の前に妊娠検査薬を使うと、その結果につい一喜一憂してしまいます。できれば妊娠検査薬は使わずに、妊娠判定日までゆったり過ごす方がストレスを軽減できるでしょう。
胚盤胞移植を数回繰り返しても妊娠しない、もしくは妊娠しても初期のうちに流産を繰り返してしまうことがあります。原因として考えられるのが「胚盤胞の染色体異常」です。
胚盤胞を子宮へ移植しても、必ずしも妊娠するわけではありません。胚盤胞に着床する力がないと、妊娠しないまま成長が止まってしまいます。
着床しない理由はさまざまですが、もっとも可能性が高いものとして「胚盤胞の染色体異常」があります。胚盤胞の染色体異常は特別なものではなく、健康なカップルでも一定の確率で起こる現象です。染色体異常がある胚は着床することができず、最終的に排出されてしまいます。
染色体異常の割合は加齢によって増加します。35歳以上になると自然妊娠が難しくなるのはこうした理由からです。
染色体異常は、胚盤胞のグレード評価では見分けることができません。見た目は正常に発育していても、実は染色体異常が隠れていることがあるのです。このような胚盤胞は、移植しても妊娠に結びつきません。
染色体異常を見分けるには、着床前診断が有効です。着床前診断とは胚盤胞の一部を採取しておこなわれる検査で、染色体に異常がないか調べることができます。
染色体異常のない胚盤胞を移植すれば妊娠が成立しやすくなり、移植後の流産率の低下も期待できます。不妊治療の現場でも、体外受精の成果を上げる有効な手段として注目されています。
着床前診断を受けるには、日本産科婦人科学会の承認を得る必要があります。ただし承認を受けるには一定の条件があり、
・過去2回以上の流産歴がある
・直近の2回の胚移植で妊娠しなかった
上記のいずれかをクリアしなければ申請することさえできません(PGT-Aの場合)。
とはいえ、流産や胚移植の不成功は精神的にも肉体的にも大きな負担です。これらを経験せずに着床前診断を受けることはできないのでしょうか。
株式会社B&C Healthcareでは「条件を満たしていなくても受けられる着床前診断プログラム」を提供しています。胚の一部、または胚から取り出したDNA情報を米国研究機関へ輸送するプログラムです。アメリカには着床前診断に対する規制がないため、条件を問わず誰でも着床前診断を受けることができます。
かつては条件を問わない着床前診断を受けるためにアメリカやタイへ渡るご夫婦もいらっしゃいました。ですが、現在は日本にいながらにして検査をすることが可能です。年齢が心配な方や残されたタイムリミットを有効に使いたい人にとって、着床前診断へのハードルが下がるのは有意義といえるでしょう。
胚盤胞移植は従来の初期胚移植に比べて高い妊娠率を示しますが、胚盤胞まで育たないケースもあり、一概にどちらがいいとはいえません。
胚盤胞移植で妊娠が難しい場合は、着床前診断を検討するという手段も残されています。B&C Healthcareでは着床前診断について詳しい資料を配布中です。着床前診断のメリットやデメリットについてさらに詳しく知りたい方は、一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。