妊娠しやすくするために薬を使って排卵を起こす「排卵誘発法」は、不妊治療の現場ではごく一般的におこなわれている治療です。
ですが、はじめて排卵誘発法をする人は「生理期間のどのタイミングでやるの?」「病院にはどれくらい通う?」「副作用は?」といったように、さまざまな疑問や不安を抱くことでしょう。
そこで今回は、排卵誘発法の治療の流れや薬の種類、リスクなどについて解説します。排卵誘発法を検討している人はぜひご一読ください。
排卵誘発法とは具体的にどんな治療法なのでしょうか。排卵を誘発するメカニズムや排卵誘発剤の種類、副作用やリスクについてお伝えします。
排卵誘発剤についてお話する前に、まずは排卵のしくみについて見ていきましょう。
まず、脳の視床下部から脳下垂体へ「ゴナドトロピン」というホルモンを出すための指令が送られます。
脳下垂体からゴナドトロピンが分泌されると、卵巣が刺激されて卵胞が成長します。
卵胞が十分に成長すると、再び視床下部から脳下垂体へ「黄体化ホルモン(LH)」を出すための指令が送られます。
黄体化ホルモンが分泌されて24~36時間が経つころ、成熟した卵子が卵胞を破って卵巣の外へ飛び出します。これが排卵のメカニズムです。
排卵が起こらないと、タイミング法や人工授精を繰り返しても妊娠することはありません。
排卵誘発法は、内服薬や注射などによって排卵を起こす手助けをすることをいいます。
排卵誘発法で使われる薬にはさまざまな種類があるので、用途や体質に応じて使い分けることが可能です。
排卵誘発法は、以下のようなケースで用いられます。
・自然のままでは排卵が起こりにくいとき
・たくさんの卵子を排出して不妊治療の成功率を上げたいとき
・体外受精にともなう採卵で、できるだけ多くの卵子を採取したいとき
排卵誘発法をおこなうと妊娠しやすくなるメリットがある反面、副作用がある、多胎になりやすいなどのデメリットもあります。効き方や副作用は薬の種類によって異なるので、医師と相談しながら自分に合う治療法を検討しましょう。
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排卵誘発剤は、大きく2種類に分けることができます。
①内服薬(クロミフェン療法)
クロミフェン(製品名:クロミッド、セロフェンなど)という内服薬を飲んで、排卵を誘発する方法です。クロミフェンを内服すると脳下垂体からのゴナドトロピン分泌が促され、卵巣を刺激して排卵を促進します。
注射と比べて効果は穏やかですが、通院の手間がなく、副作用も比較的軽いことが特徴です。
②注射(ゴナドトロピン療法)
ゴナドトロピン製剤(製品名:ゴナールエフ、フォリルモンなど)を注射して、排卵を誘発する方法です。ゴナドトロピン製剤は脳下垂体から放出されるゴナドトロピンと同様の働きをします。
生理2~4日目から毎日注射をするため通院に手間がかかり、副作用を引き起こす確率が比較的高いですが、卵巣を直接刺激するため内服薬よりも高い排卵誘発効果を得られます。
排卵誘発法には、次のような副作用やリスクがあります。
クロミフェン療法…内膜が薄くなる、頸管粘液が分泌されにくくなる
ゴナドトロピン療法…多胎妊娠、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)など
OHSSとは、ゴナドトロピン療法で卵巣が強く刺激を受けたときに起こる症状です。主に卵巣が腫れて胸水、腹水がたまります。
軽症の場合のOHSSの症状は下腹部の不快感、痛み、重苦しさなどです。この場合は、安静と痛み止めで様子を見ます。
重症になると胸水がたまって呼吸がしづらくなり、入院が必要になることもあります。OHSSの重症化を防ぐため、ゴナドトロピン療法をおこなうときは慎重に投与がすすめられます。
排卵誘発剤の薬代は、1周期で1~2万円(保険適用・3割負担)が目安です。超音波検査費用、自己注射をする場合は指導料や消耗品代などの費用が別途でかかります。
保険適用外で排卵誘発剤を使う場合は、さらに費用が高くなることもあります。
排卵誘発は生理周期に合わせておこなわれます。排卵誘発のおおまかな治療スケジュールについてまとめました。
注射をする場合は生理開始後2~4日目から、内服の場合は生理開始後5日目から薬の投与をおこないます。
内服は薬をもらったら次のステップまで来院は不要ですが、注射は毎日通院が必要です。患者自身が家で投与できるよう、自己注射の指導をおこなうクリニックもあります。
超音波検査で卵胞の発育状況をチェックします。検査することで薬の効果を確認できるほか、いつ排卵が起こるかを予測することが可能です。
生理12~13日目ごろになると、大量の黄体化ホルモン(LH)が分泌される「LHサージ」が起こります。十分に発育した卵胞はLHサージの刺激を受けて卵巣の外へ飛び出します。
確実にLHサージを起こしたい場合は、hCG注射またはスプレキュア点鼻薬が用いられることがあります。
生理13~14日ごろに排卵が起こります。この期間に性交渉や人工授精、体外受精の採卵などをおこないます。
排卵したあとは、着床しやすくするために黄体機能を正常に保つ必要があります。
黄体機能は体内で分泌されるプロゲステロンによって維持されますが、薬を使って黄体補充療法をおこなう場合もあります。
妊娠していない場合は、生理28日目ごろに生理が始まります。
生理予定日になっても出血しないときは、妊娠しているかどうかを確かめるためにhCGホルモンの測定がおこなわれます。
排卵誘発剤は、排卵を促して妊娠しやすくするために必要なものです。とはいえ薬による体のだるさや痛み、連日の通院などもあり、女性の負担はかなり大きいといえます。
排卵誘発剤の負担を減らすために、できることはあるのでしょうか。
一般的に注射よりも内服でおこなう排卵誘発法のほうが副作用は軽く、通院の負担も抑えることができます。注射での排卵誘発法がつらいときは、内服治療に変えることも検討してみましょう。
また、注射で排卵誘発をしなければならない場合でも、内服薬と組み合わせて注射回数を少なくすることもできます。内服薬でも体質によっては合わないことがあるので、つらいときは我慢しすぎずクリニックに相談しましょう。
現在は不妊治療の現場で「着床前診断」がおこなわれることが多くなりました。着床前診断とは、体外受精で得られた受精卵の染色体に異変がないか調べる方法です。
異変のない受精卵を子宮に戻すことで、着床率の向上や流産率の低下が期待できます。つまり、着床前診断をおこなうことで不妊治療の期間を短縮することができるのです。
不妊治療を早く終わらせることができれば、周期ごとの排卵誘発の負担も減ります。とくに女性の年齢が35歳以上だと受精卵の染色体異常の割合が増えるので、「着床できる受精卵を選ぶ」ことは重要です。
日本のクリニックにおける着床前診断(PGT-A)は、流産や体外受精不成功を繰り返している人を対象におこなわれます。
現在では海外の検査機関で着床前診断をおこなうプログラムも登場しており、こうしたプログラムを活用することもひとつの方法です。
海外の検査機関といっても渡航の必要はなく、受精卵または受精卵から取り出したDNAのみを輸送するので、日本にいながらにして検査が可能となります。
不妊治療は期間が長くなればなるほど身体的、経済的な負担が増していきます。着床前診断も視野に入れながら、自分に合う治療法を選択しましょう。
排卵誘発法は、内服薬や注射を使って排卵を促す治療法です。薬の種類や治療法によって効果や副作用に違いがあるため、医師と相談しながら自分の希望にもっとも近い治療を検討しましょう。
排卵誘発法がつらいときは、治療方法や薬を変えることも有効です。また、治療期間を短縮するためには「着床前診断を受けてみる」という手段もあります。
着床前診断についての詳しい情報は、株式会社B&C Healthcareが配布する資料で確認できます。「もっと着床前診断について知りたい」というときに活用してみてはいかがでしょうか。