出生前診断には、受けられる「期限」があります。どの検査も妊娠週数に応じて実施可能な時期が決まっており、検討に時間をかけすぎると、希望する検査が受けられなくなる可能性があります。
本記事では、「いつまでに判断すればいいのか」「どの検査を選べばいいのか」と迷う方に向けて、各検査の実施可能な時期や注意点、結果を受けた後についてなどを解説します。限られた時間の中で、後悔のない判断をするために、ぜひ参考にしてください。
出生前診断は検査の種類ごとに受けられる時期が異なり、それぞれ妊娠週数に制限があります。ここでは、代表的な検査ごとの実施可能なタイミングについて詳しく見ていきましょう。
NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液から胎児の染色体異常(ダウン症候群、エドワーズ症候群、パトウ症候群など)の可能性を調べる検査で、一般的に妊娠10週0日から受けることができます。
比較的早期に検査が可能で、精度が高く、採血のみで行えるため母体や胎児への直接的な身体への負担が少ないことから人気があります。
しかし、検査の対象となる年齢や過去の妊娠歴などの条件が設けられている場合もあり、実施前に医療機関への確認が不可欠です。また、検査は基本的に日本医学会などが認定する認証施設での実施が推奨されています。
検査前後に専門家による遺伝カウンセリングを通じて、検査の意義や限界、結果の解釈について十分な理解を得てから臨みましょう。
羊水検査は、羊水中に含まれる胎児の細胞を採取し、染色体の異常をより確実に診断できる確定的検査の一つです。一般的には妊娠15週以降、多くの場合は妊娠16週から18週頃に実施されます。検査結果が出るまでに通常1〜2週間ほどかかります。
この検査は診断精度が非常に高い反面、子宮に針を刺して羊水を採取するため、わずかながら流産(約0.2~0.3%程度)や出血、感染症などのリスクも伴います。
そのため、いきなり受ける検査ではなく、他のスクリーニング検査で所見があったときに確定診断をするためのものとなります。検査を受けるかどうかは、医師と検査のメリット・デメリットについて慎重に相談しながら進めることが求められます。
検査当日は数時間の安静が必要となることもあり、体調管理や仕事などのスケジュールの調整にも注意が必要です。
母体血清マーカー検査(クアトロテストなど)は、母体の血液中に含まれる特定の4つの成分(AFP、hCG、uE3、Inhibin A)を測定し、それらの濃度と妊婦さんの年齢や体重、妊娠週数などの情報を組み合わせて、胎児がダウン症候群や18トリソミー、開放性神経管奇形である可能性を統計的に算出する非確定的検査です。
妊娠15週から17週頃(施設によっては21週頃まで可能な場合もあります)が適正な時期とされています。こちらも採血のみで行えるため身体的負担は少ないですが、あくまで確率を評価するスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。
リスクの目安を知るための一つの手段として選ばれることも多く、比較的早い段階での受診が重要です。検査の精度には限界があるため、陽性と判定された場合も、必ずしも赤ちゃんに異常があるというわけではなく、確定診断(羊水検査など)と併用して総合的に判断することが推奨されます。
出生前診断の結果が陽性であった場合、追加の検査や今後の選択を迫られることになります。限られた時間の中で冷静な判断を下すために、対応可能な期間や流れをあらかじめ把握しておくことが重要です。
NIPTや母体血清マーカー検査といったスクリーニング検査で陽性の結果が出た場合、その結果だけで胎児の染色体異常の有無を確定し、出産の判断をすることはできません。染色体異常の有無を明確にするには、前述した羊水検査や絨毛検査といった確定診断が必要です。
これらの確定診断は一般的に妊娠15週以降(絨毛検査はもう少し早い週数から可能ですが、実施施設が限られます)にしか行えないため、初期のスクリーニング検査の受診が遅れると、陽性結果を受け取った後の時間が極端に限られてしまうことがあります。
検査の種類や医療機関の予約状況によっては、日程調整にも想定以上の時間がかかるため、できる限り早めの行動と情報収集が望まれます。
日本では、母体保護法により、経済的理由や母体の健康上の理由などにより人工妊娠中絶が認められるのは妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)と厳密に定められています。
つまり、スクリーニング検査を受け、その結果を受けて確定診断に進み、遺伝カウンセリングなどを通じて十分に話し合い、出産を継続するかどうかを決めるには、妊娠22週に達する前に最終的な判断を下す必要があります。
診断結果を受け止めてから決断に至るまでには、想像以上の心的負担と時間が必要となることが多く、精神的な準備や家族(特にパートナー)との十分な対話も含め、余裕を持ったスケジュール管理が不可欠です。
ここでは、出生前診断を受けるうえで知っておくべきリスクや、病院選びで見落としがちなポイントについて具体的に解説します。
出生前診断、とくにNIPTや母体血清マーカー検査のようなスクリーニング検査は、胎児に特定の状態がある可能性が高いか低いかをふるい分けるものであり、「陽性=異常が確定」ではありません。
実際には異常がないのに陽性と出る「偽陽性」や、逆に異常があるのに陰性と出る「偽陰性」といった結果が出る可能性もゼロではないため、検査結果を過信することは禁物です。
より正確な診断のためには、スクリーニング検査で陽性となった場合に羊水検査などの確定的な検査が必要になるケースもあり、その結果の受け止め方にも冷静さが求められます。
検査結果を正しく理解するためにも、担当する医師や遺伝カウンセラーからの説明をよく聞き、不明な点や不安なことは遠慮なく確認し、納得するまで質問することが大切です。
特にNIPT(新型出生前診断)に関しては、日本産科婦人科学会などの関連学会が共同で策定した指針に基づいた「認証施設(認可施設)」での実施が推奨されています。
認証施設では、検査前に十分な遺伝カウンセリングが義務付けられており、検査の意義や限界、結果の解釈、さらには陽性だった場合の選択肢などについて、専門的な知識を持った医師や遺伝カウンセラーから丁寧な説明とサポートを受けることができます。
一方で、これらの指針に従わない「非認証施設(無認可施設)」も存在し、中には医師の十分な立ち会いがなかったり、遺伝カウンセリングが省略されたり、十分な説明やサポートが受けられないこともあります。
費用が安いなどの理由だけで安易に選んでしまうと、後々後悔することにもなりかねません。信頼できる医療機関を選ぶことが、安心して検査を受け、納得のいく結果を得るために大切です。
出生前診断は身体的な負担が少ない一方で、結果によっては強い精神的ストレスが生じることもあります。ここでは、検査による不安や葛藤への対処法として、カウンセリングの重要性を取り上げます。
スクリーニング検査で陽性の可能性が示された場合、あるいは確定診断で異常が認められた場合、「本当に赤ちゃんに異常があるのか」「この先の妊娠をどうすればよいのか」「出産を継続すべきか、それとも諦めるべきか」といった、非常に重く、答えの出しにくい問いに直面することになります。
将来への不安や、期待とのギャップ、時には罪悪感や自責の念に苛まれ、混乱の中で一人で抱え込んでしまうケースも少なくありません。
特に妊娠中はホルモンバランスの影響で情緒が不安定になりやすく、普段ならできる冷静な判断が難しくなることもあります。周囲からの励ましが逆にプレッシャーになったり、理解を得にくい場合もあり、社会的な孤独感を抱える方も少なくありません。
こうした精神的負担は、決して無理に一人で乗り越えようとするものではなく、適切な支援を受けながら、ゆっくりと自分の気持ちを整理していくことが大切です。
出生前診断を受ける際、多くの認証医療機関では、検査の前後に遺伝カウンセリングの機会が設けられています。
遺伝カウンセラーや専門の医師は、検査の医学的な側面(仕組みや結果の意味、精度、限界など)について分かりやすく説明するだけでなく、その結果が持つ意味や、今後の選択肢(さらなる検査、妊娠の継続、人工妊娠中絶など)について、ご夫婦の価値観や状況を尊重しながら、中立的な立場で情報提供を行います。
また、心理的な動揺や不安に対して耳を傾け、感情面のケアにも配慮してくれます。一人や夫婦だけで抱え込まず、専門家と一緒に情報を整理し、じっくりと話し合うことで、より納得のいく、後悔の少ない判断につながりやすくなります。
出生前診断は、検査ごとに受けられる時期が厳密に決まっており、時間との勝負になる場面もあります。情報を知らずに判断を先延ばしにしてしまうと、希望していた検査を受けられなかったり、選択肢が限られてしまうこともあるでしょう。
大切なのは、正確な知識を持ったうえで、医師や家族とよく相談しながら、自分たちにとって納得のいく選択をすることです。不安を一人で抱え込まず、必要に応じて専門家のサポートも活用しながら、心から納得できる判断を重ねていきましょう。
そして何より大切なのは、夫婦でよく話し合い、協力し合いながら、できるだけ自然な気持ちで向き合うことです。授かった命を、性別や結果にとらわれず大切に育むという姿勢が大切です。
胎児の染色体異常が心配な場合、妊娠する前に染色体異常を調べられる「着床前診断」という検査があります。着床前診断は体外受精で得られた受精卵の染色体を調べる検査です。
検査結果で正常な染色体の受精卵を移植すれば、胎児の染色体異常を防げる可能性が高まります。不安や迷いがあるときは、B&C Healthcareのような専門機関に相談することをおすすめします。