
「多嚢胞性卵巣症候群と診断されたけれど、自分は妊娠できるのだろうか」と不安を抱える方は多いのではないでしょうか。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵がうまく起こらなくなる病気で、不妊の原因として知られています。一方で、決して珍しい疾患ではなく、適切な治療によって妊娠を目指せるケースも多くあります。
正しい知識がないまま「太っているからだ」「もう自然には妊娠できない」と思い込み、必要以上に落ち込んでしまう方も少なくありません。大切なのは、自分の状態を正しく理解し、妊娠に向けてどのような選択肢があるのかを知ることです。
この記事では、多嚢胞性卵巣症候群の症状や原因、診断の基準から、妊娠を希望する場合の治療法までをわかりやすく解説します。

多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣の中で卵子がうまく育たず、排卵が起こりにくくなる病気です。英語の頭文字をとってPCOSとも呼ばれます。まずは、どのような状態を指すのかを正しく押さえておきましょう。
多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣に小さな卵胞がたくさんできるものの、その卵胞が十分に育たず排卵に至らない状態を指します。排卵されなかった卵胞が卵巣に残るため、超音波検査では多数の卵胞が連なって見えます。この所見はネックレスサインとも呼ばれ、診断の手がかりになります。排卵が起こりにくくなることで、月経不順や不妊につながりやすくなるのが特徴です。
多嚢胞性卵巣症候群は、生殖年齢の女性のおよそ5〜10%にみられるとされ、決してまれな病気ではありません。20〜30代の比較的若い世代にも多く、不妊外来を受診する方の中でも代表的な原因の一つです。診断されると不安に感じるかもしれませんが、同じ悩みを抱える女性は数多くいます。まずは過度に心配しすぎず、状態を把握することから始めましょう。
多嚢胞性卵巣症候群と聞くと、肥満や多毛をイメージする方もいるでしょう。たしかに男性ホルモンの影響でそうした症状が出る場合はありますが、日本人では欧米ほど男性ホルモンが高くならないことが多く、むしろ痩せ型の方も少なくありません。正常な体重なのに「痩せなければ」と無理なダイエットをすると、かえって排卵が起こりにくくなることもあります。適正な体重を保つことこそ、妊娠を目指すうえで大切なポイントになります。

多嚢胞性卵巣症候群の症状は人によって幅があり、ほとんど自覚がない場合もあります。ここでは、代表的な3つの症状を紹介します。
最も多くみられるのが、月経に関する異常です。排卵が起こりにくいため、月経周期が長くなったり(希発月経)、月経そのものが止まってしまったり(無月経)します。生理が来ていても排卵を伴わない、無排卵月経のケースもあります。月経周期が35日以上空いたり、3か月以上止まったりする場合は、一度婦人科を受診すると安心でしょう。
男性ホルモンが過剰になると、口まわりやお腹などの体毛が濃くなる、にきびができやすくなる、といった症状が現れることがあります。また、インスリンの働きが関係して体重が増えやすくなる方もいます。ただし、これらの症状の出方には個人差が大きく、すべての人に当てはまるわけではありません。症状が軽くても、月経異常があれば多嚢胞性卵巣症候群の可能性は十分にあります。
排卵が起こりにくいことから、妊娠を希望してもなかなか妊娠に至らないことがあります。多嚢胞性卵巣症候群は、排卵障害による不妊の代表的な原因の一つです。さらに、年齢の割に流産しやすい傾向があるとの指摘もあります。妊娠を望む場合は、自己判断で様子を見続けるよりも、早めに専門の医療機関へ相談することが妊娠への近道になります。

原因や診断の方法を理解しておくと、治療の流れもイメージしやすくなります。ここでは、わかっている原因と診断の基準を解説します。
多嚢胞性卵巣症候群の原因は、完全には解明されていません。有力とされているのが、脳の下垂体から出るホルモン(LHとFSH)と卵巣から出るホルモンのバランスが崩れ、排卵が妨げられるという考え方です。また、患者の多くにインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」がみられ、これが男性ホルモンの増加や排卵障害に関わるとされています。遺伝的な要因も指摘されており、複数の要素が組み合わさって起こると考えられています。
多嚢胞性卵巣症候群は、日本産科婦人科学会の診断基準(2024年改訂)にもとづいて診断されます。次の3つの項目をすべて満たす場合に診断されます。1つ目は月経周期の異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症のいずれか)、2つ目は超音波検査で多嚢胞卵巣がみられること、または血中AMH(抗ミュラー管ホルモン)が高いこと、3つ目はアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰、またはLHが高いことです。2024年の改訂では、卵巣の所見の代わりにAMHを用いてよいことや、肥満がある場合はLHではなくLH/FSH比で判定することが新たに示されました。気になる症状があれば、婦人科で超音波検査と血液検査を受けることで確認できます。

多嚢胞性卵巣症候群と診断されても、妊娠をあきらめる必要はありません。治療方針は、妊娠を希望するかどうかで大きく変わります。ここでは、それぞれの治療法を解説します。
今は妊娠を希望しない場合、低用量ピルなどのホルモン剤で月経周期を整える方法が一般的です。ホルモン剤で月経をコントロールすることでにきびや多毛といった症状をやわらげ、後述する子宮内膜のトラブルを防ぐ効果も期待できます。肥満がある場合は、減量や運動を取り入れることも大切でしょう。生活習慣を見直すだけで、排卵のリズムが改善することもあります。
妊娠を希望する場合は、排卵を促す治療が中心になります。まずはクロミフェンという飲み薬を使うことが多く、これだけで7〜8割の方が排卵するとされています。効果が不十分なときは、レトロゾールという薬や、ホルモンを補う注射(FSH製剤)へと段階的に進めていきます。インスリン抵抗性があればメトホルミンを併用したり、腹腔鏡下の手術が検討されたりすることもあります。排卵すれば、妊娠のチャンスは十分に期待できるとされています。
飲み薬や注射で妊娠に至らない場合や、卵巣が過剰に反応してしまう場合には、体外受精へのステップアップが検討されます。多嚢胞性卵巣症候群では、排卵誘発の刺激で多くの卵胞が育ち、双子や三つ子などの多胎妊娠が起こりやすい点に注意が必要です。体外受精であれば、いったん採卵したうえで受精卵を1つだけ子宮に戻せるため、多胎のリスクを抑えながら妊娠を目指せます。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を避けるためにも、経験のある医療機関で慎重に進めましょう。

妊娠を希望していなくても、多嚢胞性卵巣症候群を放置するのは避けたほうがよいでしょう。将来の健康に関わるリスクがあるためです。
排卵が起こらない状態が続くと、子宮内膜が厚いまま剥がれずに残り、子宮体がんのリスクが高まると考えられています。月経がほとんど来ない状態を長く放置するのは望ましくありません。ピルなどで月経をコントロールすることは、こうしたリスクを下げる意味でも役立ちます。症状が軽くても、無月経が続く場合は受診をおすすめします。
多嚢胞性卵巣症候群はインスリン抵抗性を伴いやすく、将来的に2型糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病につながる可能性があります。妊娠や出産の問題だけでなく、長い目で見た健康管理という観点からも、適正体重の維持やバランスのよい食事が大切になります。気になる場合は、婦人科だけでなく内科的な検査もあわせて相談するとよいでしょう。
多嚢胞性卵巣症候群は、排卵が起こりにくくなることで月経不順や不妊の原因となる病気ですが、決して珍しいものではなく、適切な治療によって妊娠を目指せるケースは多くあります。「太っているから」「痩せれば治る」といった思い込みにとらわれず、まずは自分の状態を正しく知ることが第一歩です。妊娠を希望する場合は排卵誘発が中心となり、それでも妊娠に至らない場合は体外受精という選択肢もあります。妊娠を希望しない場合でも、放置による子宮体がんや生活習慣病のリスクを避けるため、早めに婦人科へ相談しておくと安心でしょう。
また、排卵誘発などの治療を経て体外受精に進む場合には、受精卵の染色体の数を移植前に調べる着床前診断(PGT-A)という検査もあります。多嚢胞性卵巣症候群は年齢の割に流産しやすい傾向があるとも指摘されており、染色体の数に異常が見つからなかった受精卵を優先して移植することで、流産の可能性を減らせると考えられています。ただし、着床前診断(PGT-A)ではあらゆる疾患や障害を検出できるわけではなく、妊娠や健康な赤ちゃんを保証する検査ではありません。受けるかどうかは、利点と限界の両方を理解したうえで医師とよく相談して決めることが大切です。
B&C Healthcareでは、日本にいながら世界標準の着床前診断を米国で受ける方法について相談できる体制を整えていますので、体外受精を検討するなかで気になる方は、まずは資料を確認してみるとよいでしょう。
