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【医師監修】40代の正常胚確率は20%以下?年齢で減るメカニズムと対策

2021.11.30

着床前診断の浸透にともない、不妊治療の現場でも「正常胚」というワードが飛び交うようになりました。詳細な意味を知らなくても、妊娠しやすい受精卵ということは想像しやすいと思います。

この正常胚、実は年齢を重ねるにつれて大きく減ってしまいます。正常胚が減れば、妊娠成立は難しくなります。では、具体的にどのくらい減っていくのでしょうか?

今回は正常胚と年齢の関係を解説するとともに、体外受精でなかなか妊娠できない場合の対策についてお話していきたいと思います。

高グレード胚で着床しないのはなぜ?

体外受精で高グレード胚を移植したのに着床しなかった。
これは実際の不妊治療現場でよく起こります。一体なぜなのでしょうか?

大きな原因として考えられるのは「移植した高グレード胚が正常胚ではなかった」ということです。ここで、正常胚と高グレード胚の違いを説明します。

正常胚とは?

まずは正常胚が何かをおさらいしましょう。

正常胚とは、染色体異常が少ない胚(細胞分裂の初期)のことです。
正常胚かどうかは着床前診断で判断するので、体外受精のグレード評価とは異なります。着床前診断の結果から、胚は大きく3つに分けることができます。

・正常胚 … 染色体異常が20%未満
・モザイク胚 …染色体異常が20~80%
・異常胚 …染色体異常が80%超

染色体異常が少ないほど、着床する確率は高まります。

ちなみにモザイク胚は、正常胚と異常胚の中間です。このモザイク胚は、異常が少なく正常胚に近い「低頻度モザイク胚」、異常胚に近い「高頻度モザイク胚」に分けられます。

移植に適しているのは正常胚、もしくは正常胚に近い低頻度モザイク胚です。異常が多い胚は着床しないか、着床したとしても流産や先天性疾患のリスクが高まります。

 

高グレード胚と正常胚は同じ?

体外受精では「グレード」という言葉が使われます。高グレード胚と正常胚、この2つは同じなのでしょうか。

一見似てはいるのですが、高グレード胚と正常胚はまったく中身が違います。グレードは成長速度や細胞の均等性を見分ける、いわゆる「見た目」の評価になります。

それに対して正常胚は、遺伝子学的検査によって分類するものです。見た目だけでは分からない染色体の数的異常や不均衡、さらに重篤な遺伝子疾患の単一遺伝子変異などを調べます。

着床成功のカギとなるのは染色体なので、着床する可能性が高いのは「正常胚>>高グレード胚」です。

体外受精で高グレード胚を移植するのはなぜ?

体外受精では、グレードの高い胚(成長が早い見た目のいい胚)を選んで移植します。理由は、高グレードの胚のほうが正常胚である可能性が高いからです。つまり、高グレード胚と正常胚は比例の関係にあります。

しかし、染色体異常は現れ方がさまざまです。グレード評価は低いけれど実は正常胚、ということもありますし、逆に見た目はきれいな胚盤胞なのに実は異常胚、ということも珍しくありません。
ですが、普通の体外受精では染色体の評価をおこないません。その結果、正常胚が破棄されてしまう、または異常胚を移植して流産を経験するということが日常的に起こってしまうのです。

 

正常胚は加齢とともに減っていく

年齢が上がるほど、正常胚は大幅に減っていきます。実際どのくらい減っていくのか、具体的な数字を見てみましょう。

年齢別の正常胚の割合は?

胚盤胞中の染色体を調査した海外論文があります。その論文によると、正常胚の割合は30代前半女性でおよそ60%、30代後半でおよそ30~40%、40代は20%以下だったそうです。30代前半でも、約半数しか正常胚がありません。なかなか衝撃的な数字ではないでしょうか。

さらに加齢が進むと、正常胚は大幅に減っていきます。もともと高くない正常胚割合が、40代になるとさらに1/3に減少。胚盤胞まで育たない受精卵も含めると、正常胚はほんの一握りの貴重な存在なのです。

高齢になると正常胚が減る理由

どうして年齢を重ねると正常胚が減ってしまうのでしょうか。

原因は卵子の老化です。卵子が老化すると、卵子内の分裂や発育に関係する部分がエラーを起こします。このエラーは35歳を過ぎてから現れやすく、40歳を過ぎると加速度的に増えていきます。

では、卵子はなぜ老化するのでしょうか。一番の原因は加齢です。「妊娠にはタイムリミットがある」といわれる所以がここにあります。

加齢のほかにも、睡眠不足、喫煙、栄養の過不足などの不摂生な生活習慣によって、老化スピードが加速するといわれています。

正常胚を増やすための治療法はある?

正常胚を増やすための有効な治療法はあるのでしょうか。残念ながら、若い頃と同じ数に戻す方法はありません。

不妊専門のクリニックでは、老化を防ぐために生活習慣の改善を指導されることがあります。確かに、老化スピードをゆるめるという点では一定の効果があるでしょう。ですが、一度老化した卵子が魔法のように若返ることはありません。正常胚の減少を食い止めることはできたとしても、時間を巻き戻せるわけではないのです。

 

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正常胚が少ないときはどうする?

加齢とともに、どんどん希少になっていく正常胚。この貴重な正常胚を妊娠に結びつけるために、できることはあるのでしょうか。
それは「貴重な正常胚を見逃さない」ということです。正常胚は見た目では判断できないので、着床前診断を受けて染色体を調べる必要があります。

着床前診断で移植あたりの着床率が上がる

正常胚が少ない場合の着床前診断のメリットとして、下の3つがあります。

・貴重な正常胚を見つけ出せる
・異常胚の移植回数を減らせる
・不妊治療期間を短縮できる

正常胚・異常胚を見分けるということは、妊娠のチャンスを逃しにくくなるということです。先ほどの海外論文のデータだと、40代の正常胚は20%以下。胚移植を10回おこなったとして、そのうち8回は異常胚ということになります。

異常胚を移植してもそのほとんどは着床せず、着床できたとしてもその多くが流産してしまいます。この繰り返しは心身ともに大変大きな負担です。異常胚の移植を減らすということは、これらの負担を軽減し、治療期間を短縮することにつながります。

ですが、着床前診断を受けるには一体どうすればいいのでしょうか。

日本のクリニックで着床前診断を受けるには

日本国内で着床前診断を受けるには、日本産科婦人科学会の個別審査が必要です。審査が通らなければ、着床前診断は受けられません。

直近2回の胚移植で着床しなかった、過去2回の流産歴があるなどの条件を満たすご夫婦は、着床前診断を扱うクリニックを通じて審査の申請ができます。ただし審査が通るまでに平均で半年ほど時間が必要ですし、そもそも審査に通らなければ着床前診断は受けられません。

条件を満たさない場合、海外渡航して国外で着床前診断を受けるという方法があります。しかし費用は高額で、言葉の壁や長期休暇取得の問題があります。

条件に当てはまらず海外渡航も難しい場合は、どうすれば着床前診断を受けられるのでしょうか。

受精卵だけ海外輸送する着床前診断がある

株式会社B&C Healthcareの着床前診断は、胚を凍結して米国研究機関へ輸送し、着床前診断を受けられるプログラムです。日本国内の着床前診断のような煩雑な制約がなく、希望すれば誰でも受けられます。日本の着床前診断では不可能な男女産み分けも可能です。

ご夫婦が渡航する必要はなく、日本にいながらにして着床前診断が受けられます。移植は日本国内の提携医療機関、もしくはかかりつけ医療機関に相談して受けることができます。不明点や不安なことは日米の遺伝カウンセラーに相談できるシステムが整っているため、初めての着床前診断でも疑問を解決しながら検査を受けられます。

正常胚なら100%妊娠する?

最後に、正常胚の着床率について述べたいと思います。

正常胚を移植した場合、妊娠が成立するのはその60%~75%とされています。正常胚でも、40%~25%は着床しません。それは、染色体以外にも着床を妨げる要因があるからです。

また、着床前診断を受けた結果、正常胚が見つからないということもないとは言えません。着床前診断をしたからといって100%妊娠できるわけではない、ということは念頭に置いておく必要があります。

まとめ

正常胚は加齢とともに減少していきます。減ったものを増やせればいいのですが、それができない以上、現在得られる貴重な正常胚をどう活かしていくかが妊活の要になります。

着床前診断は正常胚か異常胚かを見極める上で非常に有効です。妊娠にはタイムリミットがあります。限られた時間でどういう選択をしていくのか、ご夫婦で検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

監修

中林 稔 先生
三楽病院 産婦人科部長

日本医科大学卒業。東京大学医学部附属病院で研修後、三井記念病院医長、虎の門病院医長、愛育病院医長を経て、現在三楽病院産婦人科部長。毎日出産や手術に立ち会う傍ら、各地で講演を行い医学的知識や技術の普及に力を入れている。また、少子化及び産婦人科医師不足問題にも積極的に取り組み、教育においても若手医師の育成をはじめ助産師学院の設立等、幅広く活動を行っている。

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