不妊治療が保険適用化されました。ニュースでも大々的に報道されたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。「高額な不妊治療の負担が減る」とされ、メリットの大きい保険適用化。ですが、すべての治療が保険適用されるわけではありません。人によってはこれまでの助成金制度よりも出費が増える可能性があります。
そこで今回は2022年度から開始する不妊治療の保険適用化について、概要やメリット・デメリットを解説します。これから不妊治療をスタートさせるご夫婦はぜひご一読ください。
これまでは、原因がはっきりしている病気(精管閉塞や子宮の病気など)の治療を除いて不妊治療のほとんどが保険適用外でした。
しかし、2022年度からは保険適用の範囲が拡大。いままで自費診療だった「体外受精」「顕微授精」といった不妊治療も3割負担で受けられることになりました。たとえば1回の体外受精で50万円支払っていたのが、2022年度からは自己負担額15万円に下がるのです。
ただし適用には細かいルールが設定されています。まずはそのルールをチェックしていきましょう。
不妊治療の保険適用が拡充するのは2022年4月1日からです。すでにスタートしているので、これから不妊治療を開始する方は窓口負担が3割になります。不妊治療の保険適用化にともない、いままでの助成金制度(特定不妊治療費助成事業)は廃止されます。
助成金が廃止されるとなると「年度をまたぐ不妊治療をしているときはどうすればいいの?」と不安になる方もいらっしゃるでしょう。結論としては、適用外の治療であれば助成金申請が可能です。厚生労働省では経過措置として「2022年3月31日までに治療をスタートしたものは助成金制度の申請ができる」としています。
ただし申請には期限があるので、お住まいの自治体ホームページでチェックしておきましょう。
新たに保険適用になるものを表にまとめました。
2022年4月より保険適用として認められるもの | |
一般不妊治療 | タイミング法
人工授精 |
特定不妊治療 | 体外受精 顕微授精 男性不妊の手術 採卵 採精 受精卵・胚培養 胚凍結保存 胚移植 |
特定不妊治療の 追加オプション |
卵子活性化 アシステッドハッチング 高濃度ヒアルロン酸含有培養液など |
不妊治療の基本的な治療はすべて対象となります。また、生殖補助医療にかかわる一部の追加オプションも範囲内です。なお、第三者の卵子や精子による生殖補助医療は対象外となります。
体外受精や顕微授精などの一部治療は「治療開始時の女性年齢が43歳未満」という条件を満たさないと保険適用になりません。ただし「2022年4月2日~9月30日までに43歳の誕生日を迎えた女性」については、同期間中に治療をスタートすれば1回に限り保険診療で治療を受けることができます。
婚姻関係は条件に入らないため、事実婚のご夫婦でも保険適用は受けられます。また、人工授精に年齢制限はありません。
体外受精や顕微授精の胚移植には、治療開始時の女性年齢に応じて回数制限があります。
治療開始時の女性年齢 | 胚移植の回数制限 |
40歳未満 | 1子につき通算6回まで |
40歳以上43歳未満 | 1子につき通算3回まで |
ただし「2022年4月2日~9月30日までに40歳の誕生日を迎えた女性」については、同期間内に治療をスタートすれば通算6回まで保険診療を受けることができます。なお、採卵については回数制限はありません。
不妊治療が保険適用になると、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
厚生労働省の調査によると、体外受精における1回あたりの平均額は約50万円。助成金30万円を受け取ったとしても、自己負担額は20万円と高額でした。しかし保険適用になれば3割負担で15万円、家計の負担を大幅におさえられます。
さらに、保険診療でできる治療には高額医療費制度が使えます。高額医療費制度とは「その月(1日~月末まで)に支払った医療費のうち、上限を超える金額が支給される制度」です。上限となる金額は所得や年齢などで異なりますが、年収約370~700万円なら約8万円強になります。
これまで不妊治療は保険診療ではないため適用されませんでしたが、2022年4月からは高額医療費制度を活用してさらに出費をおさえることができます。
これまでは助成金によって不妊治療の負担額をおさえることができましたが、助成金を受け取るためには自治体への申請が必要でした。また、あとから補填されるとはいえ病院窓口で高額な医療費を立て替えなければならず、各家庭にとっては大きな負担となっていました。しかし、これからは窓口で3割負担に軽減されるため、いままで以上に治療を受けやすくなることが期待されています。
※高額医療費制度は申請が必要です。
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一見いいことづくめの保険適用化ですが、デメリットはないのでしょうか。現時点で想定されるものをいくつかご紹介します。
助成金が廃止されて保険適用になると、自己負担額が増えるケースがあります。
たとえば体外受精を30万円で受けた場合、助成金制度では30万円が支給されるので自己負担額は0円です。しかし保険適用では9万円を支払うことになるので、かえって出費が増えてしまうのです。
また、これまでは助成金を受け取ることができた先進医療でも2022年4月以降は全額自己負担(助成金なし)となります。負担額の増減はケースバイケースなので、詳しくは受診するクリニックに相談しましょう。
今回の保険適用化によって不妊治療が標準化、つまり「不妊治療のスタンダード」が確立することになります。ですが、生殖補助医療において治療法は千差万別です。いままではそれぞれのご夫婦に合う最善の治療法を選ぶことができましたが、スタンダードを守るのが基本の保険診療では効果的な不妊治療ができなくなる可能性があります。保険適用化によって助成金も廃止となるため、スタンダードから外れるご夫婦にとっては厳しい状況といえるでしょう。
今回の改定では有効性や安全性を確認できず、保険診療とならなかった治療がありました。これらの治療のうちいくつかは「先進医療」の扱いとなり、保険診療と併用することができます。ここでは先進医療に関する詳しい解説、そして先進医療と認められている治療の内容について解説します。
日本の医療では「混合治療」、つまり1つの病気において保険診療と自由診療を同時に受けることは原則的に認められていません。ですが自由診療の中でも「先進医療」として国から認可を受けたものは、保険診療と組み合わせることができます。つまり保険診療のみに限定することなく、より自由度の高い不妊治療を受けることができるのです。
不妊治療における先進医療(2022年5月時点)には以下があります。
・PICSI
・タイムラプス
・子宮内細菌叢検査 (EMMA/ALICE)
・SEET法
・子宮内膜受容能検査 (ERA)
・子宮内膜スクラッチ
・IMSI
・二段階胚移植法
先進医療として認められる治療は今後増えていく見込みです。先進医療にあたる部分は全額自己負担となりますが、体外受精や顕微授精と組み合わせて治療を受けることが可能です。組み合わせた採卵や採精、胚移植などの保険診療分は3割負担になります。ただし、先進医療の提供は施設基準を満たすクリニックにしか認められていません。「どこでも同じように受けられる」というわけではない点に注意しましょう。
着床前診断とは、受精卵のうちに遺伝子や染色体の異常がないかを調べる検査です。着床させる前に診断が下りるため、「何度も流産を繰り返す」「体外受精してもなかなか妊娠しない」と悩むご夫婦にとって大きなメリットがあります。
一部報道では着床前診断の保険適用化が期待されていましたが、今回は見送られました。今のところ先進医療にも該当しませんが、今後の審議によっては認められるかもしれません。いずれにしても、日本国内のクリニックで着床前診断を受けるには反復ART不成功や染色体構造異常などの条件を満たす必要があります。
ですが最近では民間の着床前診断も登場しています。B&C Healthcareの着床前診断プログラムは、反復ART不成功の回数や年齢といった条件を満たす必要はありません。「どうせ受けられないから…」と諦めていたご夫婦は一度調べてみるといいでしょう。
不妊治療の保険適用化にあたっては、さまざまなメリット・デメリットが考えられます。これらを踏まえた上で、ご夫婦ともに納得できる不妊治療を選択していく必要があるでしょう。また、今回の改定では「着床前診断の保険適用化」は見送られました。保険適用化したとしても、条件を満たさないご夫婦は対象外になることが予想されます。不妊治療は時間との勝負なので、今迷っている方は民間の着床前診断も検討してみましょう。