人工授精の次のステップとして、体外受精や顕微授精があります。不妊治療をおこなっている場合、聞いたことがある言葉かもしれません。
治療を視野に入れている方は「治療方法にどんな違いがあるの?」「リスクや赤ちゃんへ悪影響は?」と気になるものです。
本記事では、体外受精と顕微授精の具体的な違いや費用、妊娠率やメリット・デメリットなどを解説します。不妊治療をおこなっている方や検討中の方は、ぜひ知っておきたい内容です。
不妊治療の基本的な流れや、体外受精と顕微授精の違いを解説します。
体外受精と顕微授精の解説の前に、まずは一般的な不妊治療の流れを見ていきましょう。
不妊治療には段階があります。基本的な治療のステップは、以下の通りです。
①タイミング療法:受精の確率が高まる時期にSEXをおこなう治療方法
②人工授精:精子を採取し、子宮内に直接注入する治療方法
③体外受精・顕微授精:体外に精子と卵子を採取して受精卵(胚)を作り、子宮内に戻す治療方法。生殖補助医療(ART)に含まれる
体外受精と顕微授精は、人工授精の次のステップとしておこなわれます。ただし年齢や不妊の原因によっては、人工授精をとばして一気に体外受精に進むこともあります。
体外受精とは、精子と卵子を体外で出会わせてできた受精卵を子宮に戻す治療法を指します。医療機関によって多少違いはありますが、一般的な流れは以下の通りです。
①ホルモン剤で卵巣を刺激し良好な卵胞を複数個発育させる
②受精可能な卵子と精子を採取
③専用の器(シャーレ)内で卵子と精子を入れて、受精させる
④専用の液(培養液)で満たし、培養器の中で受精卵(胚)を数日育てる
⑤正常に育った胚を子宮内に移植
⑥必要に応じて黄体ホルモンを投与して子宮内環境を整え、妊娠を待つ
また、複数の正常な胚を凍結させて着床率の高い時期に融解して移植する方法(凍結融解胚移植)もあります。
顕微授精とは体外受精と同様に、精子と卵子を体外で出会わせる治療方法です。しかし、直接精子を子宮内に注入するプロセスが体外受精とは違います。具体的には、上記の体外受精の流れのうち③の工程です。
顕微授精では、③の部分が以下の工程に変わります。
③顕微鏡を使いながら、直接卵子に専用のガラス管を挿入して精子1匹を注入する
つまり体外受精とは、複数の精子を卵子と出会わせるのに対し、顕微授精は健康な精子1匹のみを選定し、直接卵子へ注入するのです。
ここまで読み「なぜ体外受精とは違う工程なの?」「どんな人が顕微授精をするの?」と感じた方もいらっしゃるでしょう。
実は顕微授精は、男性不妊の場合に有効なのです。
顕微授精は、健康な精子を確実に卵子と出会わせて受精できる点にメリットがあります。しかし精子の数が少ない、運動量が少ないなどの場合は、体外受精だと受精率が下がるのです。その場合、健康な精子のみを選定して卵子に挿入する顕微授精の方が、受精の可能性が高まることが考えられます。
よって、男性側に原因がある場合や体外受精で受精卵ができなかった場合は、顕微授精をおこなうことがあります。
体外受精と顕微授精の妊娠率はどのくらいなのでしょうか?あわせて、気になる費用や治療前に知っておきたいリスクを解説します。
結論として、体外受精と顕微授精の妊娠率は年齢によって違いがあり、年齢が上がるにつれて確率は下がります。
日本産婦人科学会の2019年のデータによると、妊婦の年齢が30~39歳の場合、「胚移植あたりの妊娠率」は約30~45%です。40歳以上になると約28%以下になり、年齢が上がるにつれて確率は下がります。
妊娠率を高めるには、なるべく早い治療が有効だといえます。
体外受精や人工授精などの不妊治療は基本的に保険適用外です。
各費用の相場は、体外受精は一回につき約20万円~60万円、顕微授精は体外受精の費用のプラス約5~10万円です。ただし治療をおこなう医療機関によってメニューや料金は異なるので、詳細は確認しましょう。
このように費用は高額で負担が大きいので、助成金制度があります。国やお住まいの自治体のホームページなどで支給条件を調べて、対象になる場合は利用するとよいでしょう。
※2022年より不妊治療の保険適用がスタートします。それに先駆け、2021年1月から2022年3月までは特定不妊治療費助成金の所得制限が撤廃されています。また1回の助成金額も15万円から30万円に拡充しています。詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
体外受精や顕微授精をおこなう際、リスクや副作用はどんなものがあるのでしょうか。治療を検討するなら、当然気になる点でしょう。
以下に治療前に知っておきたいリスクをまとめました。どれも発生率は極めて低いですが、頭に入れておくとよいでしょう。
採卵のためにホルモン剤で卵巣を刺激すると、まれに卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が発症することがあります。卵巣が腫れ、お腹に水が溜まったり腹痛が起きたりする症状です。重症な場合は血栓症を引き起こすこともあります。
複数の胚を子宮内に注入した場合、多胎妊娠(胎児が2人以上)のリスクが高まります。多胎妊娠だとそうでない妊娠に比べて早産や胎児発育不全、妊娠糖尿病などが発生しやすくなるです。そのため、日本産科婦人科学会では、移植する胚は原則1つと定めています。
採卵時に、まれに膣や子宮内、内臓が傷ついて出血したり、細菌が入り骨盤内感染症が発症したりすることがあります。
なお胎児の先天性異常発生の割合は、体外受精も顕微授精も自然妊娠と変わらないと報告されています。
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上記で解説した体外受精と顕微授精の特徴をふまえて、各メリットやデメリットをまとめました。各メリットやデメリットを知ったうえで、今後の治療の選択をしましょう。
各メリットは以下の通りです。
【体外受精のメリット】
・顕微授精と比べて自然に近い方法で受精が可能
・費用が顕微授精より安く済む
・卵子が傷つき破損する可能性が低い
【顕微授精のメリット】
・精子を選定できるため、精子の質が悪い、量が少ないなど男性不妊でもおこなえる
・直接精子を卵子に注入するため、体外受精より受精率が高まる
各デメリットは以下の通りです。
【体外受精のデメリット】
・精子の量や多く、質が良くないと受精率が下がる
・顕微授精よりも受精率が下がる
【顕微授精のデメリット】
・体外受精よりも費用が増加する
・直接卵子にガラス管を差し込むため、破損するリスクがある
体外受精とは体外に精子と卵子を採り出して受精させ、子宮内に受精卵を戻す治療を指します。顕微授精とは体外受精の一環で、卵子に直接精子を1匹のみ注入する方法です。
人工授精でなかなか授からない場合、次のステップとしておこなわれます。心身や経済的に負担が大きいですが、不妊治療の中では妊娠率が高い治療法です(年齢や不妊の原因によっては、人工授精をとばして一気に妊娠率の高い体外受精に進むこともあります)。
今回紹介したメリット・デメリットや詳細をふまえて検討するとよいでしょう。
精度の高い治療をおこないたい場合、染色体異常のない受精卵のみを選定して子宮内に戻す「着床前診断」という選択もあります。株式会社B&C Healthcareでは、産み分けも可能な着床前診断のサービスを提供中です。この機会に検討してみるのはいかがでしょうか?