アンジェルマン症候群という病気をご存知でしょうか。一般的にはあまり知られていない病気ですが、アンジェルマン症候群は遺伝子の突然変異によって誰にでも生じるおそれがあります。
アンジェルマン症候群とはどんな病気なのでしょうか。また、遺伝することはあるのでしょうか。
ここでは赤ちゃんが欲しいご夫婦に向けて、アンジェルマン症候群の概要をお伝えしていきます。アンジェルマン症候群とは
アンジェルマン症候群は、重度の精神発達遅滞をともなう遺伝子の病気です。主な症状としては、発達に遅れがみられる、言葉が出ない、動作がぎこちない、けいれんなどがあります。アンジェルマン症候群では、次のような症状がみられます。
アンジェルマン症候群は指定難病および小児慢性特定疾病です。根本的な治療法はなく、対症療法によって長期的に見守っていく必要があります。
・知的障害
・言語障害
・運動障害
・睡眠障害
・哺乳障害
アンジェルマン症候群は、生まれてから6か月以降に発達の遅れを認めます。言葉を使ったコミュニケーションが困難で、まったく言葉が出ないか、出たとしても「パパ」「ママ」など単語のやりとりに限られます。
歩き方や動作にぎこちなさがみられ、夜はうまく眠ることができません。赤ちゃんの頃は哺乳が難しく、思うように体重が増えないことがあります。
また、子どものうちはけいれん発作、側弯症といった症状が多くみられます。症状を和らげるために、抗てんかん薬によるコントロールや定期的な経過観察が必要です。
症状以外には、次のような特徴がみられます。
・水が好き
・よく笑う
・興奮しやすい
・特徴的な顔立ち
アンジェルマン症候群の子どもは、水やビニール袋などのキラキラしたものを好みます。好奇心は強く、ちょっとした刺激でよく笑うことも特徴のひとつです。
興奮しやすく、うれしいときや楽しいときは手をはばたかせる様子がみられます。
顔立ちは大きな口、歯間が広い、あごが突き出ているといった特徴が共通します。とはいえ目立つような違いではなく、アンジェルマン症候群についてよく知っている人が分かる程度のものです。
幸いなことに、アンジェルマン症候群では命にかかわる内臓疾患(心臓の病気など)はみられません。寿命も一般の人とほぼ同程度と考えられています。
アンジェルマン症候群の原因は、生まれつきの遺伝子異常です。
父親と母親から受け継いだ染色体のうち、15番目の染色体に含まれる「UBE3A遺伝子」が正常に機能しないことによって起こります。
アンジェルマン症候群に男女差はなく、人種による違いもほぼありません。したがってどんな家庭でも、アンジェルマン症候群の赤ちゃんが生まれる可能性は等しいといえます。
アンジェルマン症候群は、1万5,000人のうち1人の確率で発現するといわれています。
難病情報センターによると、日本国内ではおよそ500~1,000人の患者が確認されています。小児慢性特定疾病情報センターではさらに多くの患者数を見込んでおり、実際には3,000人以上の患者がいるのではないかといわれています。
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アンジェルマン症候群には若干の遺伝性があることが分かっています。
アンジェルマン症候群は「UBE3Aが機能しない原因」によって次の4タイプに分けられます。
・母親のUBE3A欠失
・母親のUBE3A変異
・片親性ダイソミー
・刷り込み変異
遺伝性はタイプによって変化します。まずはそれぞれの特徴について解説しましょう。
UBE3Aはやや特殊な遺伝子です。ふつう、遺伝子は父親と母親から受け継いだものが対(つい)となって働きます。
UBE3Aでは、母親から受け継いだ遺伝子しか発現しません。父親のUBE3Aは、存在してはいるものの使われないのです。一方だけが発現するプログラムは「刷り込み」または「ゲノムインプリンティング」と呼ばれ、UBE3Aを含む一部の遺伝子でみられます。
母親側の遺伝子が欠失していると、UBE3Aは機能しません。この欠失タイプはアンジェルマン症候群のおよそ70%を占めるといわれています。
母親のUBE3Aに遺伝子変異があると、正常な機能が失われてアンジェルマン症候群をひき起こします。
この遺伝子変異タイプはアンジェルマン症候群全体の10%ほどです。
ふつう、染色体は父親と母親から1本ずつ受け継ぎます。ですが、減数分裂のエラーによって「どちらか片方の親だけの染色体を2本受け継ぐ」ということがあります。これが片親性ダイソミーです。
片親性ダイソミーが生じても、多くの遺伝子では問題になりません。ですが15染色体のUBE3Aには刷り込みがあるため、母親のものでないと正常に機能できないことになります。
アンジェルマン症候群で問題になるのは、父親の片親性ダイソミーです。母親の15染色体が欠失するため、UBE3Aの機能が発現しません。
父親の片親性ダイソミーはアンジェルマン症候群全体の5%ほどにみられます。
母親のUBE3Aが正常でも、刷り込みをコントロールする部分に異常があるとUBE3Aは機能しません。電球はつくのにスイッチが壊れているような状態です。これを刷り込み変異といいます。
刷り込み変異タイプはアンジェルマン症候群全体の約5%を占めています。
4タイプのうち、遺伝する可能性があるのは「遺伝子変異タイプ」と「刷り込み変異タイプ」です。
遺伝子欠失タイプや片親性ダイソミータイプは、遺伝性がほとんどありません。
遺伝子変異タイプはもっとも遺伝リスクが高く、約30%の確率で遺伝するといわれています。刷り込み変異タイプが遺伝する可能性は約10%です。
同じタイプでも細かい部分の違いで遺伝しやすさに差が出るため、詳しく知りたいときは医療機関での遺伝カウンセリングが推奨されます。
アンジェルマン症候群の遺伝が心配なときは、出生前に受けられる検査を検討します。
アンジェルマン症候群を調べられる検査は、出生前診断と着床前診断の2つです。
アンジェルマン症候群は、絨毛検査や羊水検査といった出生前診断で検出できます。すでにアンジェルマン症候群の子どもが1人いて次の子どもを検討している場合、クリニック側から検査をすすめられることもあります。
アンジェルマン症候群はNIPTでも調べることができます。ただしNIPTは非確定的検査なので、診断確定には絨毛検査や羊水検査が必要です。
また、NIPTの認可施設では13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーの3つしか検査ができません。15染色体の異常であるアンジェルマン症候群は検査できないので、信頼のおける認可外施設を選ぶ必要があります。
出生前診断の問題点は「すでにおなかの中に赤ちゃんが宿っていること」です。検査でアンジェルマン症候群の疑いが強いと分かったときに、夫婦は「産むか、産まないか」の選択を迫られることになります。
赤ちゃんを宿す前にできる検査はあるのでしょうか?
ひとつの選択肢として検討したいのが着床前診断です。アンジェルマン症候群のうち遺伝性のある遺伝子変異タイプと刷り込み変異タイプは、着床前診断で遺伝子を調べることができます。
着床前診断は、体外受精で得られた受精卵の遺伝子を調べる検査です。遺伝子的に問題のない受精卵を子宮へ戻すため、中絶による心身の負担を軽減するメリットがあります。
アンジェルマン症候群は命にかかわる合併症はないものの、家族の根気強いフォローが必要な疾患です。夫婦の就労やライフスタイルにも大きく影響するため、専門家の遺伝カウンセリングを受けながら検査を検討していきましょう。
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