日本の夫婦の3組に1組が悩むという不妊。治療を始めたいと思っても「どんなことをやるのか分からない」という不安から、なかなか最初の一歩を踏み出せない方も多いようです。
そこで今回は不妊治療の流れや治療内容、費用、期間について解説します。仕事との両立や男性不妊にも触れているので、不妊治療を検討しているご夫婦はぜひご一読ください。
不妊治療は男女ともに不妊検査からスタートし、治療へと進んでいきます。治療はタイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精とステップアップしていくのが一般的です。
それぞれのステップについて詳しくみていきましょう。
不妊治療で最初におこなわれるのが不妊検査です。検査項目には以下のようなものがあります。
検査項目 | 分かること |
基礎体温測定 | ・排卵の状態 ・排卵日の予測 ・黄体機能 |
超音波検査 | ・子宮の形 ・子宮内膜の状態 ・子宮の病気の有無 ・卵胞の状態 ・排卵日の予測 |
内分泌検査 | ・妊娠にかかわるホルモンの分泌状況(LH、FSH、FT4など) |
卵巣予備能の検査 | ・卵巣にどのくらい卵子が残っているか (抗ミュラー管ホルモン:AMH) |
性感染症検査 | ・性感染症にかかっていないか |
卵管疎通性検査 | ・卵管に通過障害がないか |
フーナーテスト | ・精子が子宮に到達しているか ・精子が運動できているか |
精液検査 | ・精子の量 ・精子の数 ・精子の濃度 ・精子の運動率 ・精子の奇形率 |
ご覧のとおり不妊検査にはさまざまな項目があり、数回の通院に分けて検査がおこなわれます。月経周期を通じておこなう検査もあるため、すべての結果が出るまで少なくとも1ヶ月ほどかかるのが一般的です。
タイミング法は、医師のアドバイスを受けながら自宅で性交をおこなう方法です。妊娠するには排卵日の見極めが重要で、基礎体温表や超音波検査の結果をもとに排卵日を予測します。
排卵しづらいときに使われるのが排卵誘発剤です。排卵誘発剤には大きく2通り(内服または注射)の方法があります。
排卵を誘発する方法 | 薬剤 | 特徴 |
内服 | クロミッド | 効果はゆるやかだが副作用が少ない |
注射 | HMG | 効果が高いが副作用が出ることもある |
内服の場合は約1週間ほど薬を飲み、超音波などで卵胞の発育をチェックします。注射の場合はおよそ40時間後に排卵が起こるため、タイミングを調整しやすいのがメリットです。
タイミング法は6周期ほどおこなわれますが、それ以上は妊娠する可能性が低くなるため、人工授精へのステップアップを検討します。
タイミング法の妊娠率は1周期あたりだと約5%です。6周期を過ぎるころには約50%のカップルが妊娠するといわれています。
人工授精はあらかじめ採取した精液を調整し、子宮内へ注入する方法です。タイミング法で妊娠にいたらなかったご夫婦に加え、不妊検査で精子と頸管の相性があまりよくない(精子頸管粘液不適合)とき、性交がうまくいかないときなどに適応となります。
人工授精をおこなう前に、排卵誘発剤を使用するのが一般的です。卵胞の状況を確認しながら人工授精日を決定し、当日は精液の採取と注入がおこなわれます。
子宮への注入では細くてやわらかいカテーテルが使われ、注入時間も数秒です。軽く痛むことはありますが、強い痛みが長く続くことはありません。
人工授精は4~6周期ほどおこなわれますが、妊娠にいたらないときは体外受精のステップアップを検討します。
人工授精における妊娠率は1周期あたりおよそ5~10%です。4周期以上おこなった場合、女性年齢が40歳未満であれば妊娠率は約20%、40歳以上であれば約10~15%とされています。
体外受精はあらかじめ採取した卵子と精子をシャーレ内で受精させる方法です。タイミング法や人工授精は一般不妊治療に該当しますが、体外受精からは生殖補助医療と呼んで区別します。
体外受精には採卵が必要です。採卵前に超音波検査で卵胞の状態をチェックし、採卵日を決定して前日に排卵誘発剤の注射をおこないます。採卵するときは卵巣に針を刺して卵子を採取しますが、痛みを抑えるために麻酔をすることも可能です。
採取した卵子と精子をシャーレ内で混合し、受精させます。この受精卵を培養して得られるのが赤ちゃんのもととなる胚です。順調に成長した胚は子宮へと移植され、着床率を高めるために黄体ホルモン補充療法もおこなわれます。
胚移植は新鮮胚移植と凍結胚移植の2つの方法があり、現在は妊娠率の高い凍結胚移植が主流です。
1移植あたりの妊娠率は新鮮胚移植でおよそ20%、凍結胚移植でおよそ35%。ただし、33歳を過ぎるころから体外受精の妊娠率は低下します。
顕微授精は体外受精の一種です。一般的な体外受精はシャーレ内の卵子に精子を振りかけて受精させますが、顕微授精では精子をひとつだけ細いガラス針に取り込み、顕微鏡下で直接卵子に注入します。
体外受精で妊娠にいたらないときや、乏精子症や無精子症で得られる精子が極端に少ない場合に有効です。
不妊治療は2022年4月より保険適用されることになりました。各治療での費用負担は次のようになります。
治療方法 | 1周期の費用目安 (3割負担) |
治療に含まれる内容 |
タイミング法 | およそ5,000円 | 診察、検査、薬代 |
人工授精 | およそ1万5,000円 | 診察、検査、薬代、人工授精 |
体外受精 | およそ10~20万円 | 診察、検査、薬代、採卵、採精、受精、 培養、アシステッドハッチング、胚移植 |
体外受精は、
・薬剤をどれだけ使うか
・1回の採卵、培養でどれだけ良質な胚を得られるか
・新鮮胚移植・凍結胚移植のどちらを選択するか
などの条件で費用が変わります。保険適用であれば高額医療費制度が使えるので、さらに費用を抑えることも可能です。
ですが、すべての不妊治療が保険適用になるわけではありません。保険適用で認められていない治療もあるため、希望する内容が保険診療なのか自費診療なのかをあらかじめ確認しておきましょう。
不妊治療にかかる期間はケースバイケースですが、短い場合で3ヶ月以内、長い場合で5年ほどです。平均的な期間は、およそ2年程度といわれています。
不妊治療をするときは、通院の頻度も気になるところです。
クリニックや治療内容によって異なりますが、タイミング法や人工授精は1周期あたり2~6日ほど、体外受精は5~12日ほど通院をします。体外受精だとこのうち1~2日ほどは半日以上時間が必要です。
卵胞の成長に合わせて急に治療スケジュールが決まることもあるため、仕事を休む頻度はどうしても増えてしまいます。
仕事と両立させるときは、休職制度や時間単位の有給休暇、時差出勤制度など会社で使える制度をあらかじめ調べておくといいでしょう。厚生労働省が作成している「不妊治療連絡カード」を活用するのもひとつの方法です。
不妊治療で痛いといわれるものは、採卵と卵管造影検査です。このうち採卵は希望すれば麻酔を使うことができます。
卵管造影検査は卵管に詰まりがないかを調べる検査で、造影剤を注入するときに痛みを生じますが、感じ方は人それぞれです。卵管が詰まりかけていると強い痛みを感じることがありますが、卵管の詰まりがなければ軽い痛みで済みます。また、検査後は卵管の通りがよくなって妊娠しやすくなるのがメリットです。
男性不妊には勃起や射精がうまくできない性機能障害、精子をうまく造ることができない造成機能障害、精子がうまく排出されない精路通貨障害があります。
治療は内服や注射、生活指導などです。精策静脈瘤や精路閉塞がみられるときは、手術をおこなうこともあります。また、精液中から精子が採取できないときは外科的に精子を取り出す精子採取術によって顕微授精が可能です。
こちらもおすすめ
【医師監修】妊娠がいち早くわかる方法は? 気づくきっかけやタイミングをチェック
体外受精や顕微授精をしても、妊娠にいたらないことがあります。大きな理由は加齢です。年齢が進むとどうしても卵子の老化が進み、染色体異常のある受精卵の割合が増えてしまいます。染色体異常のある受精卵は着床しないか、早期のうちに流産することがほとんどです。
移植には順調に育った胚が選ばれますが、染色体レベルの異常がないかどうかはこの時点で判断できないため、結果を待つしかありません。
受精卵を染色体レベルで見分ける方法があれば、着床率の向上が期待できます。そこで注目されているのが着床前診断です。
着床前診断は受精卵の一部を採取して染色体や遺伝子を調べる検査です。着床前診断によって着床しづらい胚、流産しやすい胚の移植を回避することができます。
体外受精を何度も繰り返すのは心身ともに大きな負担です。体外受精の回数を減らしたい、残されたタイムリミットを有効に活用したい方にとって、着床前診断は大きなメリットがあるといえるでしょう。
不妊治療の流れや治療内容についてお伝えしました。費用や期間はあくまでも目安であり、タイミング法で不妊治療を卒業される方も大勢いらっしゃいます。治療を進めるかどうかはご夫婦の判断なので、あまり身構えずに不妊検査だけでも受けてみましょう。
また、体外受精の回数を減らすには着床前診断が有効です。株式会社B&C Healthcareでは着床前診断の詳しい資料をご提供しています。興味のある方は一度取り寄せてみてはいかがでしょうか。