子どもと目線が合わない、言葉が遅いといった困りごとをきっかけに「もしかして自閉症?」と悩むママが増えています。
自閉症はコミュニケーションに難しさを抱えやすい生まれつきの特性ですが、具体的にどのような特徴が現れるのでしょうか。また、診断や療育を受けるにはどうしたらよいのでしょうか。
この記事では、自閉症の原因や特徴、診断に適した時期、子どもとの向き合い方などについて解説します。
自閉症は、コミュニケーションに難しさを抱えやすい、こだわりが強いなどの特性をもつ生まれつきの障害です。
自閉症の割合は全体の約1%といわれ、幼少期に気づかれることが多いのですが、中には特性が目立たず大人になるまで気づかれない方もいます。
かつては親の愛情不足やしつけの影響によるものという説もありましたが、実際には脳の機能的な障害であり、育て方によって現れる障害ではないことが分かっています。
自閉症は、これまで区別されていたアスペルガー症候群や広汎性発達障害とひとまとめになり、自閉スペクトラム症(ASD)という名称に変更しました。スペクトラムは「連続体」という意味です。
名称変更のきっかけになったのは、2013年にアメリカ精神医学会から発行された「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」です。
もともと専門家の間では、自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害は根本にある特徴が同じで、特性の強さもグラデーションのように連続していると考えられてきました。
この流れを汲み、DSM-5ではそれぞれを区別せず、自閉スペクトラム症というひとつのまとまりとして総称したのです。
現在、診断名としては自閉スペクトラム症という名称を使いますが、一般的には自閉症として認知されているため、この場では自閉症という名称を用いることにします。
自閉症の原因については、まだはっきりとしたことは分かっていません。現時点では多くの遺伝的な要因が絡み合って起こる脳の障害ではないかと考えられています。
自閉症の方は脳内神経物質であるセロトニンの量に特徴があることが分かっており、セロトニンの合成や分解に関与する遺伝子の変異が示唆されています。
しかし、このような特徴は自閉症の方すべてに当てはまるわけではないため、原因解明にはしばらく時間がかかりそうです。
自閉症には「コミュニケーションの困難がいろいろな場(家+学校 など)で見られる」、「こだわりの行動を繰り返す」という特徴があります。
具体的な例として、次のようなものが挙げられます。
【赤ちゃんの時期】
・抱っこを嫌がる
・あまり泣かない
・あやしても笑わない
・人見知りをしない
・親の後追いをしない
・ミルクを飲まない
【幼児の時期】
・言葉が遅い
・目線が合わない
・触られるのを嫌がる
・指さした方向を見ない
・名前を呼んでも振り向かない
・ひとりごとや一人遊びが多い
・相手の言ったことをオウム返しにする
・物の配置や道順などにこだわりがある
・表情が乏しい、または場にそぐわない表情をする
・おもちゃを一列に並べる、同じ場所をぐるぐる回るなどの行動を繰り返す
・偏食が激しい
これらの行動や特徴は個々によって異なり、現れ方にはかなり差がみられます。
また一部の自閉症の方は、音・光・匂いなどに敏感だったり(感覚過敏)、逆に鈍かったり(感覚鈍麻)することがあります。
自閉症にはさまざまな併存症があり、7割以上がひとつの精神疾患を、4割以上がふたつ以上の精神疾患を有するとされています。
主な併存症は以下のとおりです。
・知的障害
自閉症でもっとも多い併存症で、最重度(IQ20以下)、重度(IQ21~35)、中等度(IQ36~50)、軽度(IQ51~70)の4段階に分類
・学習障害(LD)
意味を理解しながら読むことができない、文字の読み間違え、正しく字を書けない、算数が苦手 など
・注意欠如・多動症(ADHD)
集中力が続かない、気が散りやすい、落ち着きがない、思い立ったらすぐ行動してしまう など
・発達性協調運動症(DCD)
寝返りやハイハイといった発達に遅れがある、動きがぎこちない、スキップや縄跳びが苦手、姿勢が崩れやすい、指先の細かい動きが苦手 など
・睡眠障害
寝つきが悪い、寝ようとしない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める、朝起きられない など
これらの併存症のほかに、二次障害として不安・抑うつなどが起こることがあります。また、自閉症ではてんかんの併存もよく見られます。
自閉症とダウン症はどちらも先天性で、知的障害を併発しやすいという意味では共通しています。また、ダウン症の方の8~18%が自閉症になるというデータもあるようです。
しかし、自閉症は脳の障害、ダウン症は遺伝子の障害という部分で大きく異なります。自閉症は主に社会との関わりでつまづくことが多く、ダウン症は発達の遅れのほかに心臓や消化器などの身体的な病気をもつ方が多いのが特徴です。
自閉症になりやすい人について、明確な特徴はありません。
性別では男性に多く、女性と比べて約4倍の発生頻度となっています。ただし、知的障害のない自閉症の女性は困りごとが表面化しにくいという特徴があり、実際にはもっと多くの患児・患者が隠れている可能性があります。
また、自閉症には遺伝が関係していますが、家族に自閉症の方がいるからといって高確率で遺伝するわけではありません。
なぜかというと、自閉症はさまざまな遺伝要因が重なって起こる「多因子遺伝疾患」だからです。自閉症に関係する遺伝子をいくつか引き継いだとしても、残りの遺伝子を引き継がなければ自閉症としての特性は現れないことになります。
反対に、両親に自閉症の特性がなくても、遺伝子の組み合わせ次第で自閉症になる可能性があるのです。
家族に自閉症がいることは無関係ではありませんが、ある意味では誰にでも身近に起こる可能性があるといえます。
自閉症の可能性が疑われるときは、小児科や児童精神科を受診して検査をおこないます。検査をするかどうか迷う場合、地域の療育センターや発達障害者支援センターなどの窓口に相談するのもひとつの方法です。
ただし、検査を受けたい人数に対して専門医療機関の数が足りていないなどの事情もあり、検査を希望しても実施まで数ヶ月待つことが少なくありません。
そのことを踏まえ、検査を受けたい場合は早めの行動がすすめられます。また、検査までの間に地域や学校の窓口を利用して、普段の困りごとを相談できる環境をつくっておくと心強いでしょう。
自閉症は、言語や認知が未発達な乳児のうちはまだ分かりにくいため、もう少し大きくなってからでないと診断ができません。診断が下りるのは早くても2歳以降からになるでしょう。
自閉症の併存症である注意欠如・多動症(ADHD)は3~5歳から、学習障害(LD)は小学校の入学以降から現れやすく、この時期に診断が下りることが多いようです。
もし子どもが自閉症だと診断されたら、どのように対応していけばよいのでしょうか。基本は「環境調整」と「療育」のふたつになります。
自閉症の特性は、環境を整えることで軽減することができます。具体的には、次のような工夫です。
・予定変更でパニックを起こしてしまう → イラスト入りのカレンダーをリビングに飾ってあらかじめ分かるようにしておく
・不安やイライラが起こりやすい → リラックスできるよう室内用テントを用意しておく
また、子どもが場面や場所にそぐわない行動をしてしまう場合、「勉強する場所」「遊ぶ場所」「食事をする場所」を段ボールや衝立などで明確に分けると、安心して過ごしやすくなります。
療育とは、障害のある子どもが日常生活を自立して過ごせることを目的として、子どもの発達を促す支援をおこなうことです。それぞれの子どもの発達段階や困りごとの内容に合わせて実施されます。
療育が受けられる施設には、未就学の子どもが通う児童発達支援、小学校以降の子どもが通う放課後デイサービスがあり、ほかに子ども発達センター、総合療育医療センターといったところでも療育が受けられます。
衝動性や癇癪、自傷行為、気分の急激な落ち込みなどの症状がみられる場合、リスパダールやエビリファイなどの薬物を使って症状を抑えることがあります。これらは脳内神経物質のバランスを整える薬です。
また、うつなどの二次障害や睡眠障害、てんかん発作などに対しても症状に応じた薬が処方されます。
着床前診断とは、子どもを希望するご夫婦が妊娠する前に行う染色体検査のことです。染色体に異常がみられない受精卵を着床させることで、流産または重篤な遺伝性疾患を回避することが可能になります。
ですが、自閉症を着床前診断で見分けることはできません。自閉症はいくつもの遺伝子が複雑に関与して起こる多因子遺伝疾患であり、着床前診断でも見分けることは困難だからです。
その一方で、単一遺伝子疾患やトリソミーについては技術的に可能です。また、染色体異常による流産を減らせる点は大きなメリットであり、不育症や不妊症に悩むご夫婦の間で広がりを見せています。
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自閉症は生まれつきの脳の障害であり、特性の現れ方は子どもによってさまざまです。気になる行動や発達の遅れがあるときは、地域の窓口やかかりつけの医療機関などで相談してみましょう。
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