「単一遺伝子疾患」という言葉を耳にしたことはありますか?
遺伝子病のうち、たった1つの遺伝子異常によって起こる病気のことです。単一遺伝子疾患には深刻な症状をひき起こすものや治療が難しいものも多数含まれます。
産まれてくる赤ちゃんが単一遺伝子疾患になる可能性はあるのでしょうか?もし可能性があるのなら、治療や予防はできるのでしょうか?今回は単一遺伝子疾患に関するさまざまな疑問にお答えします。
単一遺伝子疾患とは「1つの遺伝子によって発生する病気」のことです。メンデルの法則に従って発現することから、メンデル遺伝疾患、メンデル遺伝病などと呼ぶこともあります。
単一遺伝子疾患は多岐にわたり、その数は9000以上です。また、希少性難治疾患の多くは単一遺伝子疾患です。
代表的な単一遺伝子疾患は次の通りです。
・フェニルケトン尿症
・メープルシロップ尿症
・ホモシスチン尿症
・遺伝性甲状腺機能低下症
・ハンチントン病
・デュシェンヌ型筋ジストロフィー
・多嚢胞腎
・血友病 など
単一遺伝子疾患は、出生直後におこなわれる新生児マス・スクリーニングで判明するものもありますが、子どものうちは分からず大人になってから発症するものもあります。
多因子疾患とは、複数の遺伝子や運動・食事などの生活習慣、汚染物質の影響などさまざまな原因が組み合わさって発症する病気です。
多因子疾患の例として、以下のようなものがあります。
・がん
・糖尿病
・高血圧
・関節リウマチ
・痛風
・肥満 など
多因子疾患の遺伝子を引き継いでいても、生活習慣や環境をととのえれば発症を免れる可能性があります。
ですが、単一遺伝子疾患は1つの遺伝子異常によって引き起こされるため、生活習慣や環境だけでは発症を予防できません。
単一遺伝子疾患は、遺伝の仕方(遺伝形式)によって3つに分けることができます。
・常染色体優性遺伝病
・常染色体劣性遺伝病
・X染色体連鎖遺伝病
常染色体優性遺伝病は、両親のどちらかが病気の遺伝子を有していると引き継がれます。例として、マルファン症候群、神経線維腫症Ⅰ型、軟骨無形性症などがあります。両親のどちらかがその病気である場合、遺伝する可能性は50%です。
常染色体劣性遺伝病は、両親が2人ともその病気の遺伝子を有していると遺伝します。ほとんどの先天性代謝異常症は常染色体劣性遺伝病です。両親はその病気の遺伝子を有してはいますが、多くの場合発症はしていません。保因者である両親から遺伝する確率は25%です。
X染色体連鎖遺伝病は、X染色体の遺伝子異常によって起こる病気です。病気の症状は、子どもが女の子である場合は軽く、男の子である場合は重くなる傾向にあります。疾患の例として、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、血友病、色覚異常があります。
単一遺伝子疾患を発症しても、治療によって症状を抑えることは可能です。
たとえばフェニルケトン尿症の場合、食事中のたんぱく質に含まれるフェニルアラニン量を少なくすれば症状を抑えることができます。ただし遺伝子そのものを治療することはできないため、生涯にわたって食事を管理する必要があります。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合ですと、ステロイド療法やリハビリテーションによって病気の進行を抑えることはできますが、生涯を通じて運動や食事などの生活全般に注意を払う必要があります。遺伝子そのものを治療して「病気をなかったことにする」のは難しいのです。
最近では遺伝子治療の研究が進み、実際に臨床研究がおこなわれているケースもありますが、治療が一般化するにはまだ時間がかかります。また、遺伝子治療は病気をもつ本人の治療に留まり、単一遺伝子疾患を子孫へ引き継がないようにする治療は安全性の問題から禁止されています。
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単一遺伝子疾患を根本から治療する方法はまだ一般化されていません。では、単一遺伝子疾患を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか?具体的な予防策について解説します。
子どもが単一遺伝子疾患をひき起こすかどうかは、親の遺伝子に起因します。リスクがあると考えられるのは次のようなケースです。
・ご夫婦のどちらかが単一遺伝子疾患である
・家族や親類が単一遺伝子疾患である
・ご夫婦の間にすでに単一遺伝子疾患の子どもが産まれている
・これまでに流産や死産、または新生児死亡を経験している
自身や家族が発症者である場合は遺伝リスクが高いため、医師から遺伝カウンセリングをすすめられることもあります。
単一遺伝子疾患を防ぐには、出生前の遺伝子検査が必要です。産まれてくる子どもの遺伝子情報を検査する方法は大きく2通りあります。
・出生前診断
・着床前診断
出生前診断は赤ちゃんを妊娠したあとにおこなわれる検査で、羊水検査や絨毛検査があります。検査時点ですでにお腹には赤ちゃんがいるため、もし陽性と判定された場合は「産むか、産まないか」の判断を迫られることになります。どちらを選択するにしても、ご夫婦の苦悩ははかり知れません。
ですが、もうひとつの方法である着床前診断にはこうしたデメリットがありません。着床前診断は体外受精で得た受精卵の遺伝子検査をおこなう方法です。妊娠する前に遺伝子異常を判別できるため、肉体的・精神的負担を大幅に軽減することができます。
単一遺伝子疾患を防ぐ目的でおこなわれる着床前診断はPGT-Mです。
日本国内でPGT-Mを受けられるのは「重篤な遺伝病を有する子どもを産むリスクが高いカップル」に限定されます。また重篤な遺伝病とは「成人になる前に日常生活が著しく損なわれたり、生命を落としたりする危険のある病気」です。
2022年に日本産科婦人科学会の見解改定がおこなわれ「成人後に発症する疾患」も審査対象とするように方針が変わってきていますが、単一遺伝子疾患の大部分が承認されるようになるにはまだ時間がかかるでしょう。
日本国内のクリニックでは、日本産科婦人科学会の承認が得られなければ着床前診断を受けることはできません。承認が下りないご夫婦は、妊娠そのものを諦めるしかないのでしょうか。
嬉しいことに、近年は海外の検査機関で検査を実施する着床前診断プログラムが登場しています。日本国内で体外受精をおこない、得られた受精卵または受精卵の遺伝子情報だけを取り出して米国研究機関へ輸送する方法です。
米国では着床前診断の規制がないため、検査に承認を必要としません。遺伝子情報を調べて病気の心配が少ないと判断された受精卵は、子宮へと移植されます。株式会社B&C HealthcareのPGT-Mでは染色体を調べるPGT-Aも同時におこなわれるため、着床率の向上も期待できます。
単一遺伝子疾患が子どもに遺伝した場合、症状を軽くする治療はできても遺伝子そのものを治療するのは難しいでしょう。遺伝を防ぐ方法として出生前診断や着床前診断がありますが、中でも着床前診断は妊娠する前に遺伝子情報を調べることが可能です。子どもに遺伝させたくないと強く願うご夫婦にとって、ひとつの選択肢となるでしょう。
PGT-Mについては、B&C Healthcareが詳しい資料を提供しています。着床前診断についてもっと知りたいという方はぜひ利用してみてはいかがでしょうか。