排卵が起こらずに月経が止まってしまう、または月経があるのに実は排卵が起こっていない状態のことを「排卵障害」と呼びます。
こうした排卵障害は、いったい何が原因で引き起こされてしまうのでしょうか?また、排卵障害が判明した場合、この先妊娠することは可能なのでしょうか。
この記事では、排卵障害が起こる原因や主な症状のチェックリスト、排卵障害を治す方法などについて解説します。
排卵障害は、女性が排卵するプロセスで何らかの異変が起こり、そのせいで卵子がうまく育たない、もしくは育った卵子が排出されないことをいいます。
女性の不妊原因は、大まかに分けて以下の3つです。
・排卵障害
・卵管障害
・着床障害
3つのなかでは、排卵障害がもっとも多い不妊原因とされています。
妊娠する予定がない場合でも、排卵障害を放っておくと月経が起こらずに内膜が肥厚し子宮内膜増殖症や子宮体がんなどの病気につながることがあります。排卵障害を疑う症状があるときは、早めの受診が大切です。
排卵障害を理解するために、まずは正常な排卵のメカニズムについて見ていきましょう。
排卵の際には、脳の視床下部から下垂体へと「成熟した卵胞を育てなさい」という指令が送られます。このとき分泌されるのが卵巣刺激ホルモン(FSH)です。
FSHは卵巣に働きかけ、卵胞の成熟を促します。1周期につき数百~千個もの卵胞が成長を開始しますが、実際に排出される卵子はたった1つです。
卵胞が成熟すると、卵巣からエストロゲンが分泌されます。エストロゲンの刺激を受けて、脳下垂体から分泌されるのが黄体化ホルモン(LH)です。
このときの黄体化ホルモンの急激な分泌をLHサージと呼びます。LHサージから24~36時間が経過すると、卵胞の膜が破れて卵子が排出されます。
卵子を排出したあとの卵胞は黄体となり、黄体ホルモンのプロゲステロンを分泌します。プロゲステロンによって子宮内膜は厚くなり、受精卵を迎える準備をととのえていきます。
このように、排卵のプロセスではさまざまなホルモンが関与しあうことで起こります。もし一部分でも欠けてしまうと、「卵胞が成長しない」「卵子が排出されない」などといったことが起こるのです。
以下のいずれかに当てはまるときは、排卵障害の可能性があります。
・月経がこない
・月経周期バラバラで不規則
・月経周期が長い、または短い
・経血量が多い、または少ない
・月経以外にも不正出血がある
・基礎体温表が二相(低温期と高温期)に分かれていない
月経がこないときは「排卵障害かも?」と疑うきっかけになります。その一方で、月経があるにもかかわらず排卵していないケースは少なくありません。排卵障害かどうかを見分けるには、月経の状況についてじっくり観察する必要があります。
月経周期は25~38日、経血量は20~140mlが平均とされています。これらの平均を外れている場合は、一度産婦人科を受診してみてもよいでしょう。
基礎体温表を記録することも、排卵障害かどうかを判断するのに役立ちます。
ホルモンの分泌が正常な場合、基礎体温は低温期と高温期(温度差0.3℃程度)の二相に分かれます。排卵障害がみられるときは、高温期のない一相となるか、二相であっても体温差が0.3℃未満になることが多いようです。
排卵障害の原因は、主に「中枢性排卵障害」、「PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)」、「高プロラクチン血症」の3つです。それぞれの違いについて見ていきましょう。
脳の視床下部や下垂体の不調によって起こる排卵障害です。FSHやLHなどのホルモン分泌がうまくいかず、排卵に不具合を生じてしまいます。
過度のストレスや、ダイエットによる急激な体重低下などが引き金となって起こることが多いようです。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵胞の成長が途中でストップし、たくさんの小さな卵胞が卵巣内に留まってしまう病気です。20~45歳の女性のうち、約5~8%がPCOSに罹患しているといわれています。
PCOSでは、無月経や稀発月経(月経周期が39日以上)などの月経異常のほか、男性ホルモン過多によるニキビ・体毛の増加といった症状が現れやすくなります。
プロラクチンとは出産・授乳時に増加するホルモンで、乳汁の分泌を助ける働きがあります。
しかし、出産や授乳をしていないにもかかわらずプロラクチン分泌が増えて、排卵障害を引き起こすことがあります。これを高プロラクチン血症と呼びます。
高プロラクチン血症では、乳汁が出る、胸が張る、生理がなかなかこないといった症状が現れます。
その一方で、これといった症状がほとんどなく、気づかないうちに高プロラクチン血症となっているケースもあるようです。
排卵障害は、妊娠希望がある場合は下記に記載されている排卵誘発剤を使って治療するのが一般的です。主な排卵誘発剤の特徴や副作用についてチェックしましょう。一方で特に現在妊娠希望がない場合は低容量ピルにより生理を定期的に起こさせることができます。また、治療希望がない場合、生理が3ヶ月開くことがなければ経過観察することもあります。
脳下垂体に作用して卵胞の成長を促す内服薬です。間接的に作用するため効き方はマイルドですが、そのぶん副作用が少ないというメリットがあります。
中枢性排卵障害のうち、軽症例において有効です。
hMG製剤は、卵巣に直接働きかけて排卵を促す注射薬です。多胎や卵巣過剰刺激症候群などの副作用を起こすリスクがありますが、効き方が強いという特徴があります。
中枢性排卵障害のうち、クロミフェンでは効果がみられなかった症例の治療において有効です。
卵子の排出を促す黄体化ホルモン(LH)と似た働きをする注射薬です。hCG製剤を打つと、およそ36~38時間後に卵子が排出されます。
卵胞の成長を促すクロミフェンやhMG製剤と組み合わせて使うことが多いようです。
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【医師監修】排卵誘発法ってどんな治療?副作用やリスクはあるの?
排卵障害は、過度なストレスや急激なダイエット、肥満などが引き金となっている場合が多いとされています。
したがって、食事・睡眠・運動などの生活習慣を見直してストレスを上手にコントロールすることは、排卵障害の改善に役立つといえるでしょう。
とはいえ、薬を使わないことにこだわりすぎて治りが悪くなってしまってはよくありません。自分の体の状況を正しく把握するためにも、早めに婦人科を受診することが大切です。
排卵障害にはさまざまな原因があり、症状の度合いも個人によってまちまちです。したがって、一概に排卵障害の妊娠率を示すことは難しいといえます。
排卵障害のひとつである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を例にとると、出産率はPCOSでない人と比べて20%ほど低下し、妊娠に至るまでの期間は2年ほど延長するといわれています。
とはいえ、治療を受けて再び排卵が起こるようになれば、妊娠することは十分に可能です。
排卵障害に悩む方がいる一方で、毎月排卵が起こっているにもかかわらず妊娠しないという方もいらっしゃるでしょう。
排卵しているのに妊娠しない理由のひとつとして、加齢による卵子の質の低下が考えられます。
質の低下した卵子は、精子と結びついて受精する力や、成長を維持し続ける力がありません。したがって、「排卵しているのに妊娠しない」という状況が起こってしまうのです。
着床前診断とは、体外受精と組み合わせておこなわれる受精卵の検査です。
具体的には、体外受精で得られた受精卵の一部を採取し、染色体や遺伝子について調べることができます。
受精卵の染色体に何らかの異常があると、子宮内膜に着床しないか、流産・死産に至ってしまうことがほとんどです。
着床前診断は移植をおこなう前に受精卵の染色体異常を調べることができるため、妊娠率の向上や流産率の低下につながる検査として期待されています。
排卵障害は目立つような症状が少なく、「婦人科で検査してはじめて排卵障害に気づいた」というケースも少なくありません。排卵障害を判断するには月経記録や基礎体温表が役立つので、アプリなどを利用して自分の状況を把握しておきましょう。
排卵しているのに妊娠しないときは、さまざまな原因が考えられます。検査をしても原因が分からない場合、加齢による卵子の質の低下が影響しているかもしれません。
株式会社B&C Healthcareでは、不妊症や不育症で悩むご夫婦に向けて着床前診断の詳しい資料を提供しています。「不妊治療を早く終わらせたい」と考えている方は、情報収集のひとつとして利用してはいかがでしょうか。