着床前診断は受精卵から細胞を取り出して検査をおこないます。ですが、受精卵から細胞を取り出すと聞けば細胞が傷つかないか、受精卵にダメージはないのかと不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、着床前診断によって受精卵に影響が出ないのか、どうやって検査をするのかなどを解説します。
まずは、着床前診断のために受精卵から細胞を取り出す方法をご紹介します。
着床前診断をするためにはまず、受精卵を生み出す必要があります。
受精卵を生み出すためには卵子と精子が必要です。精子は、男性に射精をしてもらいその精子を医療機関に持参してもらいます。一方、女性は卵巣を刺激して卵胞をたくさん成長させつつ、卵子の成長を観察していきます。卵子が成長し、排卵がおこなわれる前に、卵巣を穿刺して卵子を取り出します。
取り出した卵子と採取していた精子を体外で受精させます。
受精卵が成立すると、受精卵が細胞分裂を繰り返し、胚盤胞となっていきます。着床前診断に使用するのは受精してから5~6日経過した胚盤胞です。この頃になると100個前後の細胞ができています。ですが、受精卵の成長スピードなどは、個人さによって異なるためこの限りではない場合もあります。この成長スピードについては受精卵そのものの質や、精子と卵子を採取したときの年齢が関係していると考えられています。
胚盤胞の細胞のうち、数個を着床前診断のために採取します。細胞の採取は顕微鏡下でおこなわれます。顕微鏡で胚を見ながら、透明帯と呼ばれる胚の周りの殻のような部分に穴をあけていきます。そのあとはピペットを使って、吸引する方法や圧出させるなどの方法で、着床前診断に使用する細胞をとりだしていくのです。
この方法をおこなうことで採取する細胞以外の細胞を傷つけるリスクを回避しています。
着床前診断の仕組みについて理解したところで気になるのは、着床前診断で使用した受精卵にはダメージがないのかということではないのでしょうか。
着床前診断をした受精卵にダメージが加わり、その受精卵を使って生まれてくる子どもに影響はないのでしょうか?
着床前診断のために細胞を取り出す受精卵は受精後5~6日目の胚盤胞です。この状態まで培養した胚は細胞数も100個程度になっているため、ここから着床前診断のために細胞を採取しても大きな問題はありません。過去の論文でも、細胞を取り出した事による影響は認められず、それよりも胚移植の成功率を考えると着床前診断の有用性の方がはるかに大きいと報告されています。
着床前診断をしたことによって受精卵にダメージが及び、その結果として妊娠した胎児に何かしらの影響を及ぼしたという事例の報告はありません。
そもそも着床前診断は流産や、染色体異常の受精卵を見つけるためにおこなうものであるため、一般的な妊娠よりも、流産のリスクや染色体異常児の出産をする可能性は少ないといえます。
結果として着床前診断をしたことによって、受精卵にダメージが起こり、流産に至ったのかどうかはわからないのです。
日本産科婦人科学会は2017年~2018年にかけて着床前診断において研究をおこないました。
まず、繰り返し体外受精をおこなっていても妊娠に至らなかった方へ、着床前診断をした受精卵を移植した結果、移植あたり妊娠率70.8%、流産率11.8%、実施あたり継続妊娠率35.7%となりました。
一見すると特に妊娠の継続率が低いように思えますが、着床前診断をしていなかった受精卵の妊娠継続率は26.0%です。また、妊娠率に至っては、着床前診断をしなかった例では31.7%となるので、やはり、着床前診断をして受精卵にダメージを加えた結果が妊娠に影響を及ぼしたとは考えにくいです。
次に、習慣性流産の方に着床前診断をした受精卵を移植した場合。移植あたり妊娠率66.7%、流産率14.3%、実施あたり継続妊娠率26.8%という結果になりました。こちらも、妊娠継続率は着床前診断をしなかった場合では21.1%、妊娠率は29.7%となります。
こちらのデータを見ても、着床前診断をした方が妊娠率や継続率が高い、すなわち、着床前診断による影響が妊娠に悪い影響を及ぼしているとは考えにくいことが分かります。
ちなみにこのデータで得られた妊娠継続者の出産率や、出産した子どもに染色体異常があったかどうかなどについては追跡調査中とされています。
また、通常、着床前診断に使用した受精卵は、検査結果を待つ関係から子宮内に戻すまである程度時間がかかります。そのため、一旦凍結保存をします。
この凍結保存は融解するときに5~10%程度の割合ですが、受精卵が変性してしまったり破裂して使えなくなったりします。着床前診断をして凍結したことによって、着床前診断をせずに凍結した受精卵との間に違いが出るかどうかの調査についてもおこなわれていました。
その結果を見てみると、着床前診断のために生検をしてから凍結させた受精卵を融解した時の生存率は95.8%でした。一方、着床前診断のための生検をせずに凍結させた受精卵を融解したときの生存率は94%。つまりは、着床前診断のための生検をした受精卵の方が凍結後も生存率が高いことが分かっているのです。
このことからも、着床前診断をしたことによって受精卵にダメージが加わっている可能性は低いということが結論付けられるのではないでしょうか。
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着床前診断によって受精卵や妊娠率などに多大な影響を及ぼさないことが分かったので、着床前診断をしていれば何事もなく妊娠に至り、何の影響もなく子どもが生まれて成長してくれると思われるかもしれません。
しかし、100%何事もなく妊娠、出産に至れるとは言い切れません。その理由は着床前診断の精度にあります。
着床前診断の精度自体がまだまだ不均衡です。調べたい内容によってさまざまな検査を組み合わせる必要があるのですが、その検査自体の診断結果がまちまちだからです。
また、着床前診断のために採取する細胞は数個。そうすると遺伝情報の量が少ないので、着床前診断の技術的に染色体検査や遺伝子検査が難しくなってしまい、正しい診断ができないことがあります。
また、着床前診断後も細胞分裂は続きますので、その間に検査をしていない細胞で異常が起こってしまうという可能性もあるのです。
このことから、着床前診断をしたから100%妊娠できる、染色体異常がない子どもが生まれてくるとは言い切れないのです。
着床前診断は特に日本においてはまだまだ歴史が浅い検査です。これまでおこなわれてきた研究では、胚生検をしたことによって産まれてきた子どもへの問題点はみつかっていません。また、細胞を採取するタイミングは多くの細胞数に分裂しており、いくつかの細胞を採取したとしても大きな問題のない時期です。
しかし、長期的に追跡調査をした結果などの報告はまだありません。
そのため、ある程度成長してから何か異常が起こる可能性はあります。現在では体外受精による影響か、着床前診断をした影響か、どちらが要因となっているかは判明していません。こちらについては現在も調査がおこなわれています。
現在のところ着床前診断をしたことによって、妊娠率や妊娠継続率が低くなるという報告はなく、むしろ検査をしていない受精卵よりも良好という結果が出ています。つまりは、着床前診断によって受精卵を傷つけ、妊娠期に何かしらのトラブルを引き起こす可能性は低いといえます。
まだまだ産後の子どもの成長については現在も調査中ですが今の段階では着床前診断が影響している可能性が低いということも分かっています。
受精卵へのダメージによるトラブル報告がないため、これから着床前診断をおこなおうと考えている方も安心してチャレンジしてみてはいかがでしょうか。