日ごろ「芸能人が高齢出産した」というニュースを耳にしていると、30代後半でもそれほど苦労なく妊娠できそうな気がします。しかし、30歳以上の自然妊娠確率は決して高くはありません。
不妊治療を受けるにしても、開始するタイミングが遅ければ遅いほど妊娠確率は下がってしまいます。この記事では女性が1年で自然妊娠する確率を年齢別にご紹介し、不妊治療をスタートするタイミングについて解説します。
まずは自然妊娠を試みた場合の成功確率について、年齢別にみていきましょう。
1年間避妊せずに過ごした女性の年齢別自然妊娠確率は以下の通りです。
20代前半 86%
20代後半 78%
30代前半 63%
30代後半 52%
40代前半 36%
40代後半 5%
20代は高い確率で自然妊娠しているものの、30代に入ると陰りが見えはじめます。30代後半では約半数が自然妊娠していますが、裏を返すと残りの約半数は1年経っても妊娠していないのです。
自然妊娠する確率が低下する主な原因は、卵子の減少と老化です。10代の頃に30万個あった卵子は20代では10万個に、30代では2~3万個にまで低下してしまいます。卵子そのものの質も加齢で衰え、精子と結びつく力が徐々に弱くなります。
また、子宮や卵巣をめぐるトラブルも加齢とともに増加します。子宮筋腫や子宮内膜炎、卵管炎などにかかっていると年数が経てば経つほど重症化し、卵子の排出や受精、受精卵の着床を妨げてしまいます。
これらの要因が単独あるいは重なることで、妊娠する力が知らず知らずのうちに弱まっていくのです。
女性の妊娠する力は加齢によって下がりますが、男性はどうなのでしょうか?
男性の精子も年齢とともに量が減り、運動率が低下し、奇形率が上がることが知られています。「射精ができれば妊娠には問題ない」と思われがちですが、実は生殖機能の老化は男性にも起こっています。
また、精子には受精時に細胞分裂を促して妊娠を成立させる能力が備わっていますが、人によってはこの能力が35歳ごろを境に低下していくことがわかってきました。この能力の低下は精子数や運動数が正常な人でも起こるのだといいます。
つまり男女ともに一定以上の年齢を超えれば、自然に妊娠する可能性は小さくなってしまうのです。
先ほど示した年齢別の自然妊娠確率は「着床した人の割合」です。ここに流産確率は含まれていません。
年齢別の流産確率データを参照すると、以下の通りです。
20代 10%
30代前半 15%
30代後半 20%
40代前半 50%
20代では流産確率は10%程度ですが、30代後半になると20%、若い頃の約2倍に上がっています。40代前半ではさらに確率がはね上がり、なんと約半数が流産するという厳しい現実が待ち構えています。
先ほどの自然妊娠確率と組み合わせて考えてみましょう。1年間自然妊娠を試みて赤ちゃんを出産できる確率は、30代前半でおよそ50%、30代後半でおよそ40%、40代前半で約20%という計算になります。
35歳を過ぎていると、1年間自然妊娠に取り組んでも過半数以上が生児を得られていないのです。
30代以降は自然妊娠する確率が低下しますが、この確率を少しでも高める方法はあるのでしょうか?
今すぐに取り組める妊娠力アップのための方法をいくつかご紹介します。
妊活で大切なのは、妊娠しやすいタイミングをしっかり把握しておくことです。1周期のうちもっとも妊娠しやすいのは「排卵日3日前~排卵日翌日の5日間」なので、この期間にできるだけ多く性交渉をすれば、妊娠が成立しやすくなります。
排卵日を予測するには、基礎体温表をつける、生理周期から計算する、排卵検査薬を使う、おりもの変化をチェックするなどいくつかの方法があります。
単独の方法だけに頼るのではなく複数組み合わせることでより正確に排卵日を把握できます。
生活習慣が乱れていると、なかなか妊娠に結びつきません。睡眠を十分に取って適度に運動し、暴飲暴食を避けて規則正しい生活をするのが妊娠しやすい身体づくりの基本です。また、極度の冷えは血行不良をまねき、卵巣機能を低下させます。とくに平熱が36℃以下の人は、冷えにつながる生活習慣を見直しましょう。
男性の精子も非常にデリケートで、喫煙・過度な飲酒やストレスにより精子の質が低下してしまいます。十分に休息してストレスを軽減し、喫煙や飲酒を控える生活を心がけましょう。
女性は痩せすぎも太りすぎも不妊の原因になります。痩せていると女性ホルモンの分泌が不足しやすく、太っていると女性ホルモンが全身へ行き届かないのがその原因です。
(BMI算出方法)
BMI=体重kg÷(身長m×身長m)
妊娠に適した体重はBMI20~24ですが、この範囲に当てはまらない場合は体重を適正範囲へ近づけられるよう調整しましょう。
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自然にまかせても妊娠できない場合は、できるだけ早めに不妊クリニックの受診を検討するべきです。ここでは不妊治療へステップアップするタイミングと、不妊クリニックで最初におこなわれる不妊検査について知っておきたいポイントをご紹介します。
20代で婦人科病などのリスクもとくに高くないなら、1年ほど様子をみてもいいでしょう。ですが、30歳以上であれば1年を待たずにできるだけ早く不妊クリニックを受診するのがベストです。なぜなら人工授精や体外受精などの生殖医療は、年齢が若いほど成功しやすいからです。
とくに35歳以上であれば時間を無駄にはできません。自然妊娠に取り組んで6ヶ月以上経っても妊娠しない場合は、すみやかに不妊クリニックを受診しましょう。
不妊クリニックを受診してまず最初にすることは不妊検査です。一般的に女性は血液検査・内診・子宮卵管造影検査、男性は精液検査で妊娠に問題がないかを調べます。
子宮卵管造影検査は「痛い」と言われることが多い検査ですが、最近は刺激の少ない造影剤や鎮痛剤・麻酔の使用により、従来と比べて痛みが軽減されています。また子宮卵管造影検査後の6ヶ月間は卵管の通りがスムーズになり、妊娠しやすくなるというメリットがあります。
医学が発達した今「高年齢でも体外受精なら妊娠できる」と考える人は少なくありません。しかし実際に体外受精で成功する確率は30代後半で20~25%程度、年齢が進めばさらに確率は下がってしまいます。
体外受精がうまくいかない理由のひとつに、受精卵の染色体異常があります。体外受精では採取した卵子と精子を結びつけて受精卵にしますが、その受精卵に染色体異常があると着床しにくく、着床したとしてもすぐ流産してしまいます。
受精卵はグレードを基準にどの卵が妊娠に適しているかを調べますが、あくまで肉眼的評価です。一般的な体外受精だけでは、染色体レベルのエラーは見えてこないのです。
体外受精では染色体異常が分からないと説明しましたが、まったく方法がないわけではありません。着床前診断で染色体検査をおこなえば、染色体異常をある程度見分けることができます。染色体異常が見られない受精卵を子宮に戻せば着床しやすくなるため、結果的に妊娠成立の近道になるというわけです。
日本では着床前診断を受けるための基準が厳しく、申請にも半年ほど時間がかかってしまい、敷居の高い検査でした。しかし最近は受精卵だけを米国研究機関に輸送する方法(株式会社B&C Healthcareの着床前診断プログラム)が登場しており、従来よりも着床前診断を受けやすくなっています。
これから妊活をするご夫婦にとって体外受精はまだまだ先のことのように思えますが、タイムリミットは限られています。ステップアップに応じて最適な選択ができるよう、今から情報を集めておくとよいでしょう。
自然妊娠する確率は加齢とともに低下してしまいます。人工授精や体外受精を受けるにしても、年齢が進むほど妊娠しづらいのが実情です。
とくに35歳を過ぎている場合は、早めに不妊クリニックの受診を検討しましょう。