不妊治療について調べているとき、よく目にするのが人工授精と体外受精です。
どちらも不妊の治療法ですが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?また、妊娠率や費用、負担感にはどれくらいの差があるのでしょうか?
今回は不妊治療を検討している方のために、人工授精と体外受精の違いについてご紹介します。それぞれの特徴だけ知っておきたいという方もぜひご一読ください。
人工授精と体外受精のアプローチには大きな違いがあります。それぞれの生殖の仕組みを詳しくみていきましょう。
人工授精とは、採取した精液から良質な精子を抽出して女性の子宮に注入する方法です。
「人工」とはいうものの、医療機関でおこなわれるのは精子の注入まで。排卵や受精、着床の過程は性交したときとほぼ変わりがないため、自然の形に近い妊娠方法といえます。
人工授精での通院は1周期あたり2日程度です。排卵日が近づいたら病院で内診をおこない、卵胞の成熟度合をみながら人工受精の実施日を決定します。
実施日が来たら男性の精液を容器に採取し、薬剤や遠心分離で処理して良質な精子を抽出。細いチューブを使って女性の子宮内に注入します。注入したあとはとくに安静にする必要はないので、そのまま仕事に行っても問題ありません。
人工授精では妊娠しやすいように精液や卵子を調整するので、タイミング法よりもやや妊娠率が上がります。
体外受精とは、女性から取り出した卵子と男性から取り出した精子をシャーレの中で受精させる方法です。
排卵から受精、培養、移植にいたるまで高度な医療技術のもとでおこなわれるため、妊娠を妨げているさまざまな障害をクリアすることができます。
体外受精の通院はケースバイケースですが、目安として5~8回程度です。排卵誘発剤で卵巣を刺激したあと採卵をおこない、同じタイミングで採精も実施。シャーレ内で卵子と精子がうまく受精できたら、培養液の中で胚(赤ちゃんのもと)に成長するのを待ちます。質のよい胚を子宮へと戻せば治療は終了です。
採卵(麻酔あり)や移植をしたあとは安静にしなければならず、半日~1日かかることもあります。人工授精と比べて手間もお金もかかりますが、タイミング法や人工授精で妊娠しなかったご夫婦でも有意に妊娠率が上がることがメリットです。
人工授精と体外受精はアプローチが異なるため、妊娠率や費用、負担感に大きな差があります。2つの治療法について比較をするので、どちらがご自身に合っているのかチェックしてみましょう。
人工授精における1回あたりの妊娠率は5~10%です。体外受精の場合、胚をそのまま移植するかいったん凍結するかによって妊娠率が異なります。新鮮胚(胚をそのまま移植する方法)だと約20%、凍結胚(胚をいったん凍結する方法)だと約30%です。
凍結胚で妊娠率が高い理由は、母体側が胚を着床させやすいタイミングを選択できるという点にあるようです。
妊娠率だけで比較すれば、体外受精の方が妊娠しやすいといえます。ですが不妊の原因はご夫婦によって異なるため、必ずしも体外受精がベストな選択であるとは限りません。
2022年4月からは不妊治療の大半が保険適用化され、3割負担で受けられるようになりました。
保険診療で受けたとき、人工授精の費用は1回あたり1万5,000円程度(薬代や診察代を含む)です。
体外受精は1周期あたり10~20万円程度(薬、注射、採卵、培養にかかる費用を含む)なので、人工授精と比べると費用はかなり高額といえるでしょう。
ただし、多額の費用がかかった月は高額医療費制度を活用することもできます(自由診療は除く)。人工授精も複数回繰り返せばそれなりの金額になるため、費用についてはトータルで考えるとよいでしょう。
人工授精の通院は1周期につき2回程度で、治療時間もさほど長くありません。それに比べて体外受精は何度も通院しなければならないため、とくに女性の負担感は大きいといえるでしょう。
人工授精は痛みを感じる治療がほとんどないのに対し、体外受精は採卵などで痛みを生じやすい治療です。麻酔を使えば痛みを軽減できますが、その後は数時間ほど安静にしなければならず、仕事や家の都合を調整する必要があります。
卵胞の成熟具合に応じて急にスケジュールが決まることもあるので、体外受精が仕事や生活に及ぼす影響は決して小さくないでしょう。
人工授精にはない特徴として、体外受精では順調に育った胚を凍結保存することができます。年齢につれて卵子が老化してしまうため、現時点でもっとも若い胚を保存できるのは大きなメリットです。
全体を通していえば、人工授精は自然に近く身体的にも経済的にも負担が少ない治療なのに対し、体外受精は負担が大きい治療です。反面、体外受精は妊娠率が高く、ほかの治療では解決できない原因でも体外受精であればクリアできる可能性が残されています。
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【医師監修】受精から着床までに気をつけることとは?妊娠確率を上げる方法を解説
人工授精と体外受精のどちらが向いているかは、何が不妊の原因になっているかによって変わります。人工授精と体外受精のそれぞれの適応例をみていきましょう。
人工授精が向いているのは、自宅での性交や射精が難しいご夫婦です。具体的には次のようなものがあります。
・精子が少ない、運動率が低いなど精子に軽度の問題がある
・勃起障害(ED)または射精障害がある
・性交痛などにより性交が難しい
性交を問題なくおこなうことができても、タイミング法で妊娠にいたらなかったときは人工授精を検討することがあります。
体外受精は、自然妊娠やタイミング法、人工授精で妊娠する可能性が極めて低いときに適応となります。具体的には以下のようなケースです。
・卵管がふさがっている
・排卵障害がある
・精子が著しく少ない、または精子の状態が著しく不良
・女性の年齢が高い
上のような症状がなくても、人工授精を試して妊娠にいたらないときは体外受精を検討することがあります。
人工授精と比べて妊娠率が高い体外受精ですが、それでも妊娠しないことがあります。体外受精で妊娠しないときに考えられるもっとも大きな理由は「卵子の老化」です。
卵子は女性の加齢にともなって老化し、着床する力、妊娠を継続する力が徐々に失われていきます。高度生殖医療によってサポートしても、成長に耐えられる卵子がなければ妊娠は難しいのです。
ですが、まったく可能性がないわけではありません。体外受精の成功率を高める方法として注目されているのが着床前診断です。着床前診断とは胚の染色体や遺伝子を調べる検査で、その胚に成長する力があるかどうかを見極めることができます。
一般的な体外受精でも順調に成長した良質な胚を選びますが、実際に着床できるかどうかの見極めは難しいのです。その点、着床前診断は染色体レベルで検査できるので従来よりも精度の高い識別が可能となります。
着床前診断をすれば必ず妊娠ができるというわけではありませんが、妊娠できる胚を見逃さないということは不妊治療において重要です。度重なる不成功から妊娠を諦めていたご夫婦にとって、着床前診断は有効な選択肢となるでしょう。
人工授精と体外受精はアプローチが異なるため、費用や負担感にも大きな違いがあります。妊娠率では体外受精が高いというデータが出ていますが、まずはご夫婦の妊娠をさまたげている原因を見極めて、どちらの治療法が向いているのか医師と相談することが大切です。
体外受精をすれば必ずしも妊娠できるとは限りませんが、着床前診断を組み合わせれば着床率の向上、治療期間の短縮が期待できます。
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