妊活サプリに必ずといっていいほど入っている葉酸。ですが、なぜ妊娠中は葉酸を摂取した方がよいのでしょうか。
その理由は、妊娠初期に生じる「神経管閉鎖障害」という病気を防ぐためです。ですが神経管閉鎖障害という病名はあまり一般的ではなく、聞きなれない方も多いかもしれません。
そこで今回は、神経管閉鎖障害がどういう病気なのか、予防するためには葉酸をいつからどのくらい摂取すればいいのかについて解説します。これから妊娠を考えている方はぜひご一読ください。
神経管閉鎖障害とは、神経管がうまく閉じないために起こる生まれつきの病気のことです。
神経管は赤ちゃんの脳や脊髄のもととなる部分で、妊娠初期(6週ごろ~)になると神経板という板状の組織がストローのような形になり、ぴったりと閉じて「神経管」を形成します。
ところが、何らかの理由によって神経管がうまく閉じないことがあるのです。神経管が一部開いた状態になるため、神経組織が発達しなかったり、神経組織が背骨や頭蓋骨の外に出てしまったりします。
神経管閉鎖障害は、閉鎖不全が起こった場所によって「二分脊椎症」「無脳症」「脳瘤」の3種類に分かれます。
二分脊椎症は、足側の神経管がうまく閉じないことで起こる先天性障害です。
閉鎖が不十分なせいで発達がうまくいかず、本来は背骨の中にあるはずの脊髄が背骨の外、または体の外に出てしまいます。
外に出た部分が癒着したり、脊髄に損傷が起こったりすると、運動機能や知覚機能に影響を及ぼします。症状は軽いものから排泄障害、歩行障害をともなう重症例までさまざまです。
二分脊椎症と診断された場合は、手術やリハビリなどによる治療がおこなわれます。
無脳症は、頭側の神経管がうまく閉じないことで起こる先天性障害です。
脳が成長することができず、脳全体または一部が欠損してしまいます。
無脳症は神経管閉鎖障害の中ではもっとも症状が重く、流産するか生後数日ほどで命を落とす赤ちゃんがほとんどです。
脳瘤は、頭蓋骨が一部欠損して脳の一部が外へ飛び出している状態です。病気の重度は飛び出している場所や大きさによって異なります。
損傷した場所によってけいれん発作や知的障害をともなうことがありますが、脳に損傷がないケースでは正常に発達することもあります。
神経管閉鎖障害は、妊婦健診の超音波検査やクアトロテストで見つかります。見つかる時期は、無脳症だと妊娠11~14週、二分脊椎症だと妊娠16週ごろからです。
妊娠中には診断されず、産まれたときに腰やおしりに腫瘍があってはじめて分かるケースもあります。
神経管がうまく閉じなくなる理由として、どのようなものが考えられるのでしょうか。
神経管閉鎖障害のメカニズムはまだ分かっていない部分もありますが、現時点では「葉酸不足」「環境の影響」「遺伝の影響」のいずれかが原因と考えられています。
妊娠初期にビタミンB群のひとつである葉酸を十分摂取した女性は、神経管閉鎖障害の赤ちゃんを出産するリスクが低くなるといわれています。
逆にいえば「葉酸の不足は神経管閉鎖障害の原因になる」と考えることができるのです。
2019年の国民健康・栄養調査によると、女性の食事からの葉酸摂取量は1日平均で283μgです。神経管閉鎖障害を予防するにはこのほかにプラス1日400μgの葉酸を推奨とされているので、意識して摂取する必要があります。
母親がかかっている病気や薬の内服が神経管閉鎖障害に影響することがあります。神経管閉鎖障害のリスクとして考えられているのが以下の項目です。
・抗てんかん薬の内服
・糖尿病
・高度肥満(BMI 35kg/m2以上)
・喫煙
・ビタミンAの過剰症
これらに当てはまるからといって必ずしも神経管閉鎖障害になるわけではありませんが、これから妊娠を考えている人はかかりつけの産婦人科に相談してみましょう。
神経管閉鎖障害の発症率は人種や地域で大きく異なるため、遺伝も関与していると考えられています。
母親が「MTHFR 677TT」という遺伝子型を有していると、葉酸を代謝する酵素の働きが弱くなり、二分脊椎症のリスクを高める原因となるようです。
ですが「MTHFR 677TT」の遺伝子型を有していても、葉酸を十分摂取すれば発症リスクを抑えられるという報告も出ています。
神経管閉鎖障害を予防する方法として、もっとも効果的とされているのが「葉酸の十分な摂取」です。
葉酸を十分に摂取するためのポイントについて見ていきましょう。
妊娠前から葉酸を十分に摂取すると、神経管閉鎖障害のリスクを40~80%減らすことが分かっています。
葉酸が多く含まれる食品には次のようなものがあります。
・菜の花
・アスパラガス
・さつまいも
・ほうれん草
・枝豆
・いちご
・白菜
・春菊
葉野菜や緑黄色野菜、柑橘類などの果物には葉酸が豊富に含まれているので、妊活中はできるだけ食べるようにするとよいでしょう。食品から摂取する葉酸の目安は、1日240μgです。
とはいえ食品由来の葉酸は吸収率があまり高くはなく、食品からの摂取だけでは不足しがちです。そこで厚生労働省では、妊娠を希望する女性に対して栄養補助食品(サプリメント)からの追加摂取を推奨しています。
サプリメントから追加摂取する葉酸の目安は、1日400μgです。
ただし、サプリメント由来の葉酸を摂りすぎるとビタミンB12欠乏症を見逃しやすくなるリスクがあります。サプリメントを利用するときは、1日の目安量を超えないように注意しましょう。
神経管閉鎖障害は妊娠初期に生じるため、妊娠に気づいたあとに葉酸を摂取してもタイミングが遅い可能性があります。
したがって妊娠の1ヶ月以上前、できれば3ヶ月前から葉酸を摂取するのがベストです。妊娠したあとは、妊娠12週までを目安に摂取を続けます。
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【医師監修】出産後にダウン症が発覚することはある?可能性とその後の対応を解説
着床前診断とは、体外受精で得た受精卵の遺伝子や染色体情報を調べる検査です。
着床前診断は深刻な遺伝病を回避するために利用されることがありますが、神経管閉鎖障害の検査も可能なのでしょうか。
結論からいえば、着床前診断で神経管閉鎖障害の有無を判別するのは難しいでしょう。神経管閉鎖障害になるかどうかは遺伝だけの問題ではなく、母体の葉酸摂取量や服薬状況などでも変わります。
つまり、神経管閉鎖障害の予防だけを目的に着床前診断を受ける意義はほとんどないといえるでしょう。
着床前診断で調べられる先天性異常には、ダウン症に代表される染色体異常や、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの単一遺伝子疾患(1つの遺伝子異常によってひき起こされる病気)などがあります。
着床前診断ですべての先天性異常が分かるわけではありませんが、気になる遺伝病があるときは遺伝カウンセリングで相談してみるのもよいかもしれません。
神経管閉鎖障害は、神経管がうまく成形されないために脳や脊髄の発達に影響を及ぼす病気です。葉酸を十分に摂取すると、神経管閉鎖障害のリスクを下げることが分かっています。妊娠を希望するときは、葉酸の多い食品やサプリメントを組み合わせて不足しないように注意しましょう。
先天性異常の中には、着床前診断で調べられるものもあります。株式会社B&C Healthcareでは着床前診断に関する詳しい資料をご用意しているので、「特定の遺伝病が気になる」「年齢的に少し心配…」という方は目を通してみてはいかがでしょうか。