不妊治療について調べていると「自己注射」という言葉を目にすることがあります。
海外ではごく一般的におこなわれる自己注射ですが、日本でもその影響を受けて徐々に広がりを見せているようです。
そこで今回は「自己注射がどんなものか知りたい」という方へ向けて、自己注射の目的やメリット、打つときの注意点や副作用などについてお伝えします。
自己注射をするかどうか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
不妊治療の現場では、治療を受ける本人が自分で注射をする「自己注射」を選択するケースが多くみられます。
なぜ不妊治療で自己注射が必要になるのでしょうか。また、自分で注射をすることによるメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
不妊治療で自己注射をする目的は「卵巣を刺激して卵胞を育てるため」です。とくに体外受精の採卵日前は、よりたくさんの卵子を得るために排卵誘発剤を注射するのが一般的です。
排卵誘発剤の注射は、月経周期に合わせて毎日、または一日おきに打つ必要があります。
自己注射を選ぶメリットとして、次のようなものがあります。
・通院回数を大幅に減らせる
・治療の費用を節約できる
排卵誘発剤は何度も打つ必要がありますが、「仕事がある」「医療機関が遠い」「上の子を預けられない」など、さまざまな理由から通院が困難という方は少なくありません。
注射だけでも自宅で打つことができれば、通院の手間を減らすことができます。自分で注射を打つことによって、診察代や通院の交通費を減らせるメリットもあります。
実際に自己注射を試してみた方は、自己注射に対してどんな印象を持っているのでしょうか。
生殖内分泌委員会が実施したアンケート結果によると、自己注射を試してみた方のうち80%以上が「大変よい」「おおむねよい」とする結果が得られました。
通院の手間を減らせるほか、都合のよいタイミングで打てることも自己注射のメリットとなっているようです。
とはいえ、「自分で注射を打つのは抵抗がある」という方も多いでしょう。注射そのものが苦手な場合は、内服薬や点鼻薬を利用するという手もあります。
ただし、内服薬や点鼻薬は薬が効いてくるまでに時間がかかり、効果もマイルドです。しっかり排卵誘発させたいときはやや力不足かもしれません。
体質による薬の相性もあるので、医師と相談しながら負担のない方法を選択しましょう。
「自己注射は慣れれば簡単」という声が多いものの、はじめて打つときは緊張するものです。
少しでも不安を解消するために、自己注射の一般的な手順について知っておきましょう。
自己注射を希望する場合、初回は看護師から指導を受けることが多いようです。
注射を打つ場所は、お腹や太ももなどです。打つ場所を消毒したら片手でつまんで針を刺し、薬剤を注入します。注入後に血が止まったことを確認し、消毒して絆創膏を貼れば完了です。
注射の手技だけでなく、保管のポイントや持ち運び、注射器の廃棄方法も教えてもらいます。ほかに気になる点があるときは、遠慮せずに確認しておきましょう。
自己注射はお腹や太ももなどの脂肪の多いところに打つので、実際に打ってみると「それほど痛みを感じない」という方が多いようです。
副作用としては次のようなものがあります。
・注射部位の発赤・皮下出血
・アレルギー様症状
・腹部膨満感
・頭痛
・吐き気
気になる症状があるときは、早めに医療機関の専用ダイヤルなどに連絡して指示を仰ぎましょう。
また、注意したい副作用として「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」があります。腹水が貯まる、血栓ができやすくなる、卵巣が腫れるといった症状が特徴で、重症例では入院することもあります。
OHSSが起こるのはごく少ない頻度ではありますが、違和感を感じたら早めに対応しましょう。
自己注射は毎日同じ時間に打つようにしておくと、注射忘れを防ぐことができます。仕事をしている方なら比較的落ち着いた夜の時間に、子どもがいる方なら幼稚園に行っている間などに打つとよいでしょう。
副作用が心配な場合は、病院に電話できる時間帯に打っておくと安心です。
薬剤の種類によっては決められた時間で打たなければならないもの(hCG製剤など)もあるので、処方の際はよく確認しましょう。
自己注射を取り入れた場合の通院頻度は、平均で3分の1程度に減るようです。
徳島大学の調査によると、通院で注射をおこなった場合の通院日数は16.2日、自己注射をおこなった場合の通院日数は4.5日でした。
通院頻度がグッと減ることで、仕事や育児との両立も可能になります。
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自己注射の費用は、どの薬剤を選ぶかによって差があります。また、保険適用されるかどうかも大きな違いです。
保険適用の場合なら薬剤の費用は数千円~1万円ほどですが、自費診療の場合なら1~5万円ほどになります。
また、薬剤のほかに自己注射の指導料、消耗品などの費用がかかります。このあたりも医療機関によってまちまちですが、数千円~1万円である場合が多いようです。
保険適用されるかどうかは医療機関の方針や個々の諸条件でも変わるため、事前にかかりつけの医療機関へ確認しておくとよいでしょう。
「自分で注射を打つ」という行為に抵抗を感じる方は少なくありません。そのような場合は、ペン型の注射器を選ぶと多少は扱いやすくなります。
ペン型の注射器はコンパクトで針も短く、注射が苦手な方でも利用しやすい設計になっています。通常の注射針と比べて針が細いため、痛みが少ないことも特徴です。
ペン型の注射器を導入している医療機関は増えているので「自己注射が怖い」という場合は一度相談してみましょう。
自己注射をして採卵もうまくいっているのに、体外受精で着床しないことがあります。これはなぜなのでしょうか。
受精卵が着床しない理由はさまざまですが、もっとも多いものに「受精卵の染色体異常」があります。
体外受精の移植では、外見や発育のグレードを参考に着床する可能性が高いものを選びます。しかし受精卵の染色体異常は、外見でじっくり観察しても見分けることができません。
染色体異常のある受精卵は着床する力や成長する力が弱く、ほとんどが妊娠しない、または流産してしまいます。出産することができた場合でも、先天性異常のリスクは正常な受精卵と比べて上昇します。
受精卵の染色体異常を見分けることができれば、妊娠率の向上や流産率の低下が期待できます。
いま、不妊治療の現場で活用されているのが「着床前診断」という方法です。着床前診断をおこなえば、受精卵の染色体やDNAの異常について移植前に調べることができます。
着床前診断を受けるには、日本産科婦人科学会の承認が必要です。承認を受けるには一定の条件を満たす必要がありますが、体外受精を何度繰り返しても妊娠できずに悩んでいる方にとってはむしろ近道となるかもしれません。
不妊治療で自己注射をおこなうと、通院にかかる時間や手間、費用などを減らすことができます。多忙な方や医療機関が遠方という方にはメリットの大きい治療方法なので、ぜひ検討してみましょう。
体外受精を何度も繰り返しているという方は、着床前診断を検討するのもひとつの方法です。移植前に受精卵の質を調べることができるため、治療の負担を減らすことができます。
着床前診断について知りたい方には、株式会社B&C Healthcareが詳しい資料をご提供しています。今後の参考に一度目を通されてみてはいかがでしょうか。