妊活について調べているときに「抗精子抗体」という言葉を目にしたことはありませんか?抗精子抗体は男女ともに保有する可能性のある抗体で、自然妊娠に影響を及ぼすことが分かっています。
抗精子抗体はどのような検査で分かるのでしょうか?また、治療する方法はあるのでしょうか?
抗精子抗体の気になる情報についてまとめてみたので、妊活中のご夫婦はぜひ参考にしてください。
抗精子抗体は、精子を外敵とみなして攻撃してしまう免疫反応のことです。ASA(Anti-Sperm Antibody)と表記されることもあります。
女性にとって精子は異物なので、外敵とみなして反応してしまうことがあるのです。
また、女性だけではなく、男性も抗精子抗体を持つことがあります。本来血液とは混じることのない精子が精巣の炎症や手術などによって血液に触れ、そのときに抗精子抗体が生じてしまうのです。
抗精子抗体を保有する割合は、不妊女性および不妊男性でそれぞれ3%程度といわれています。
抗精子抗体にはいくつかの種類があります。
一つは不動化抗体、精子の動きを止めてしまうものです。抗精子抗体の中で、もっとも不妊との関わりが強いとされています。
二つめは凝集抗体、精子同士をくっつけてしまう性質があります。
三つめは受精阻害抗体、精子の受精機能を破壊してしまう抗体です。
抗体には多様な種類があります。精子を不動化するが受精は阻害しない抗体もあれば、精子の不動化と受精阻害どちらの性質も示す抗体もあります。
抗精子抗体を保有していても、とくに自覚症状はありません。症状をきっかけに自分で気づくことはないため、検査で明らかになることが圧倒的です。
なかなか妊娠しないことでご夫婦自身が抗精子抗体の存在を疑い、検査を希望されるケースもあります。
抗精子抗体を有するカップルの妊娠率について、具体的な数値を表すのは困難です。抗精子抗体が示す反応の強さは個々によってかなり差があるからです。
自然妊娠やタイミング法は、抗精子抗体によって妊娠率は低下します。しかし人工授精に関しては、抗体の反応が弱ければ妊娠が成立することもあります。
体外受精に関しては、抗精子抗体が不妊原因のカップルの方がほかの不妊原因を有するカップルよりも妊娠しやすいとするデータもあるようです。
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抗精子抗体を見分ける検査には、フーナーテストや精子不動化試験などがあります。
フーナーテストは、排卵日前後に性行為をしたのち12時間以内に子宮頸管粘液を採取して、精子の数や運動率を調べる検査です。
精子所見で問題がないにも関わらずフーナーテストが不良の場合、抗精子抗体が影響している可能性があります。
精子不動化試験とは、精子と血清を混ぜ合わせ、一定時間ごとに精子の運動率の変化をチェックするスクリーニング検査です。
運動率の変化はSIV値という数値で示されます。2.00以上で陽性に該当しますが、数値の大きさにはあまり意味がなく、単に陽性かそうでないかを振り分けるためのものです。
精子不動化抗体価は、抗体の強さを表します。
具体的には、血清を希釈した上で精子不動化試験と同様の検査をおこない、精子不動化率が50%となる希釈倍数値を調べる検査です。
女性の場合、抗体価が10以下であれば、人工授精で妊娠できる可能性があります。抗体価が10より大きいときは、人工授精での妊娠は難しいため、体外受精から不妊治療をスタートさせます。
精子不動化抗体価は周期的に変動するので、陽性と診断された場合でも、別のタイミングで陰性となることがあります。
抗精子抗体を保有している場合は自然妊娠が難しいので、人工授精や体外受精によって治療をおこないます。
抗体価が低い場合、回数を決めて人工授精を実施することがあります。とくに男性が抗精子抗体を保有している場合、精子表面についた抗精子抗体を洗浄することによって精子運動率が回復する可能性があります。
女性が抗精子抗体を保有する場合、抗体を中和する目的で1回目の人工授精をおこない、その翌日に2回目の人工授精をおこなう方法(反復人工授精)もあるようです。
女性の抗体価が高い場合は、体外受精がもっとも有効的です。体外受精では採取した卵子を培養液で洗浄できるため、女性が持つ抗精子抗体を最小限に抑えることができます。
男性の抗体価が高い場合は、射精後すぐに精液中の抗体が精子を阻害してしまいます。したがって体外受精では難しいため、顕微授精を選択します。
抗体価は常に一定というわけではなく、周期的に変動することが分かっています。抗体価が強く出ることもあれば反対に弱まることもあるため、タイミングによっては自然妊娠することもあります。
ただし、抗精子抗体が変動する理由についてはっきりとしたことは分かっておらず、低下するタイミングを予測することはできません。
抗精子抗体そのものを治す治療法は確立されていませんが、ステロイド剤で抗体の反応を抑える治療をおこなうことはあります。
女性が抗精子抗体を保有している場合、1年間コンドームをつけて精子との接触を防ぐと抗精子抗体が弱まることもあるようです。ただし、時間を要するため有効な手立てとはいえません。
抗精子抗体をコントロールするのは難しいので、抗精子抗体を回避できる体外受精などで妊娠を目指すのが一般的です。
抗精子抗体があっても、体外受精で妊娠できる可能性は十分にあります。しかし、中には体外受精を何度試しても妊娠しないという方もいらっしゃいます。
理由のひとつとして考えられるのが「受精卵の染色体異常」です。受精卵に染色体異常があると、抗精子抗体を除去したとしても、受精や着床をする力が弱いために妊娠しないのです。
受精卵の染色体異常は正常な若いカップルでも起こるごく自然な現象ですが、年齢が増すと卵子、精子ともに染色体異常を生じやすいといわれています。とくに女性の年齢が35歳以上である場合、妊娠率は著しく低下し、反対に流産率は高まることが分かっています。
染色体異常の割合が高まると妊娠は難しくなります。しかし、まったく手立てがないわけではありません。
現在、不妊治療の現場で普及しつつあるのが「着床前診断」という方法です。着床前診断は、体外受精で得た胚の染色体異常を見分ける検査です。
異常の少ない胚を子宮に移植すれば、流産率の低下、ひいては妊娠率の向上が見込めます。不妊治療の期間短縮も期待できるため、体外受精が成功しないときは検討する価値が高いでしょう。
抗精子抗体は精子の働きを妨げてしまいますが、適切な不妊治療を選択すれば妊娠できる可能性はあります。
何度も体外受精を試しているのに妊娠しない場合は、染色体異常が原因かもしれません。
株式会社B&C Healthcareでは、着床前診断に関する詳しい資料をご用意しております。染色体異常や着床前診断についてきちんと知っておきたいというご夫婦は、一度目を通されてみてはいかがでしょうか。