流産や死産を繰り返してしまう「不育症」。不育症に悩む方は日本国内だけでも2~3万人と推定され、決して珍しいことではありません。
流産や死産を繰り返すのはどうしてなのでしょうか?また、有効な治療法や対策はあるのでしょうか?
この記事では、不妊症の原因、検査、治療に加え、費用目安などの具体的な内容について解説します。不育症の治療現場で注目されている着床前診断にも触れているので、ぜひご覧ください。
妊娠はするものの、流産や死産を2回以上繰り返して子どもを持てない状態を「不育症」といいます。日本人女性のうち約40%は流産の経験があり、2回以上流産を繰り返す確率は約4%といわれています。
すでに赤ちゃんがいる女性でも、次の妊娠から不育症になるケースもあります。
妊娠検査薬で陽性なのに胎嚢(赤ちゃんの袋)が見えないことを化学流産と呼びますが、化学流産を不育症の回数として含めるかどうかは意見が分かれます。
現時点では、胎嚢を確認したあとの流死産回数で考えるのが一般的です。
反復流産は不育症に含まれる症例のひとつです。流産を2回繰り返すことを反復流産、3回以上繰り返すことを習慣流産と呼びます。
習慣流産となる女性は約1%なので、100人の妊娠女性がいたら1人が該当することになります。
不育症になるはっきりとした原因は分かっていませんが、抗リン脂質抗体症候群や子宮形態異常などのリスク因子を有する場合は不育症と結びつくことがあるようです。
ただし、リスク因子を有しているからといって必ずしも不育症になるわけではありません。逆に、リスク因子がない方でも不育症になることはあります。
ここでは、代表的なリスク因子について見ていきましょう。
抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体という自己抗体によって胎盤に血栓ができてしまう病気です。血栓が生じることにより、流産や早産が引き起こされます。
抗リン脂質抗体症候群の検査では、血液の凝固時間を引き延ばすループスアンチコアグラントの測定がもっとも重要です。抗カルジオリピン抗体または抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体の検査もおこなわれます。
いずれかが陽性となった場合は12週間空けて再び検査をおこない、陽性を認めたときは抗リン脂質抗体症候群と診断されます。
子宮の形が通常と異なる場合、胎児や胎盤が圧迫されて流産を起こしやすくなります。
子宮形態異常には中隔子宮や双角子宮などの種類があり、とくに流産を起こすリスクがあるのは中隔子宮とされています。
不育症の原因として子宮形態異常を疑うときは、MRIや子宮鏡によって検査をおこないます。
甲状腺機能異常や糖尿病などの内分泌異常があると、流産のリスクが高まるといわれています。
血液検査で甲状腺ホルモン値や耐糖能などを調べることによって、内分泌異常の有無が分かります。
ヒトが持つ染色体のうち、2か所が入れ替わっている状態を均衡性転座といいます。染色体の過不足はないので、均衡性転座があっても本人の健康に問題はありません。
ですが、卵子や精子ができる際に染色体に過不足が生じ、不育症につながることがあります。
均衡性転座は血液検査で調べることができますが、結果を正しく受け取るためには十分な遺伝カウンセリングが必要です。
不育症でもっとも多いとされるのが胎児の染色体異常です。胎児の染色体異常は偶然に起こるもので、誰でもリスクがあります。
不育症の原因について調査をおこなったところ、約40%が胎児の染色体異常によるものでした。そのほかのリスク因子がそれぞれ5~10%程度なので、比較するとかなり高いことが分かります。
検査をしてもリスク因子が見当たらない場合は、胎児性染色体異常が2回以上連続した可能性が高いといわれています。
不育症の検査費用は各クリニックで差が大きく、必要な検査もご夫婦次第で異なります。
保険の範囲内で検査を受けると1~2万円(3割負担)で済むこともありますが、自費診療も適宜組み合わせるなら4万円以上を相場と考えるとよいでしょう。
染色体異常検査を受ける場合、2万円以上の費用が別途でかかります。
自治体によっては不育症の検査について助成金制度を設けているため、お住まいの地域でチェックしてみましょう。
不育症は誰でもなる可能性がありますが、40歳以上の女性では流産率が上昇するため、不育症のリスクに少なからず影響すると考えられます。
流産率は30代前半で約15%、30代後半で約25%、40歳以上では約50%以上です。
流産が増える理由としては、胎児性染色体異常の割合が増えることが大きな一因と考えられています。
医療機関で適切に処置を受ければ、不育症の方のうち約80%以上は妊娠するといわれています。
不妊症の具体的な治療についてリスク因子別にみていきましょう。
血液を固まりにくくするため、低用量アスピリンとヘパリンを併用して治療をおこないます。
海外の研究では、低用量アスピリンとヘパリンの治療によって70~80%の方が出産に至っているとの報告もあるようです。
子宮形態異常は経過観察で様子をみることも多いのですが、中隔子宮では手術を実施することがあります。
中隔子宮の手術では、子宮鏡によって内部をモニターしながら切除する方法が主流です。お腹を切ることがないため、体への負担も少なく済みます。
甲状腺機能は高すぎても低すぎても流産に影響するので、甲状腺ホルモンである合成T4製剤や抗甲状腺薬などによって数値を正常化させます。
糖尿病を有している場合も、十分な血糖値コントロールが重要です。
均衡型転座そのものを治療する方法は、現段階ではありません。
しかしながら、着床前診断という方法で対策することはできます。着床前診断とは、体外受精で得た受精卵の一部を採取して染色体異常がないかどうかを調べる検査です。
着床前診断では夫婦染色体異常に由来する異変だけではなく、偶発的に発生した胎児性染色体異常を見分けることも可能です。
着床前診断は、不育症の治療現場で注目されている検査法です。
というのも、不育症でもっとも大きな割合を占めているのは胎児性染色体異常であり、胎児性染色体異常を見分ける方法は着床前診断に限られるからです。
胎児性染色体異常は年齢が増すにつれてリスクが高くなりますが、染色体そのものの治療ができないことから、なす術がないと考えられてきました。
しかし現在は着床前診断が徐々に普及しつつあり、年齢が気になる方でも妊娠を諦めなくてよい時代に変わってきています。
着床前診断で度重なる流産の悲しみを少しでも和らげることができるのであれば、検討してみる価値はあるのではないでしょうか。
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不育症は心身ともに大きなダメージを及ぼしますが、治療を受けた約8割の方は赤ちゃんを得ているというデータもあります。
「次の妊娠が怖い」という場合は、着床前診断が力になれるかもしれません。着床前診断を活用すれば、妊娠する前に染色体異常の有無について知ることができます。
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